フェイト's Monologue

なのはが古代遺跡ロストロギア・機動兵器ヴォルクルスの転移魔法に巻き込まれてから3日が過ぎました。
私たちはというと、アースラが今までの航行で損傷が激しく現在本局に帰港しています。
そのため私は、今回の事件捜査を自ら志願し情報を集めています。
今まで私を……
いえ、私たちを助けてくれたなのはを助けるために……

魔法少女リリカルなのは
−White Angel & Black Swordmaster−

Act:06「動き出す時、なの」



フェイト's View

現在、私ははやてとともに本局にある自分の執務室にいました。
今まで手に入れた情報を整理するために。
クロノは提督会議に出席中。
聞くところによると、今回の事件の担当はクロノになるそうです。
実は、私たちが相手にしたヴォルクルスは他の場所でも発生していました。
そして、派遣された部隊の殆どが全滅に近い状態。
はやての守護騎士ヴォルケンリッターのシグナムとヴィータも行方不明になっています。
もっとも、シグナムとヴィータに関しては帰港中のアースラではやてが感じていたようですが。

「……なのは、大丈夫かな?」

私は天上を見上げながら、親友の安否を気遣い呟きました。
いつも私の側にあった、なのはの笑顔。
私は一瞬不安になります。
あの時の……
なのはが武装隊の演習で事故を起こした時の事がいまだ頭から離れません。
私が何を思っているのか気づいたのか、はやてが話しかけてきました。

「なのはちゃんなら、心配あらへんで。
 あの時とは違い、今でも魔力反応はしっかりしてるさかいな」

「そう……
 はやてがそういうなら、心配いらないね」

はやては闇の書事件で知らなかったとはいえ、なのはのリンカーコアを収集していました。
その恩恵で離れていてもなのはの状況はある程度わかるみたい。

「まぁ、ちょーとばかし遠い所にいってもうた所が心配の種やね。
 居場所が確定するのにまだ時間がかかる」

「そう……」

はやては苦笑しながらも、なのはの居場所がまだ特定できないことを心配しています。
特定できれば直ぐにでも迎えに行くつもりですから。
まぁ、でも……
はやてがああいった表情しているということは、今のところなのはに関しては問題は起きてないようです。
不意にはやては、力なく話し出しました。

「あたしとしては、なのはちゃんには悪いけど……」

「シグナムとヴィータの事だね」

「うん」

はやてにとってはシグナムとヴィータは特別な絆が出来ています。
そう、私となのなのように特別な絆が……

「シグナムとヴィータの魔力に違和感を感じるんよ。
 今まであの子たちが傷ついた時に感じてた魔力と明らかに違う」

「それって……?」

「命には別状はないみたいやけど……
 何か、すごく嫌な予感がしてなぁ……」

そういってはやては、何かに祈るように天上を見上げました。
私もシグナムとヴィータの強さは分かっています。
だけど、はやての表情を見た私も不安になってしまいます。
あの二人のことだから、無事だと信じたい……

「……う〜。
 あっ、はやてちゃん……」

「なんや、リィン。
 起きたんか?」

はやてのバッグの中で寝ていたリィンが起きたようです。
どんよりとした空気を洗い流すように、間の抜けた声を発したリィン。
そんな彼女を苦笑しながら聞き返すはやて。

「はわわ〜、ごっ、ごめんなさいですぅ。
 リィン、寝てたみたいで〜」

「気にすることはあらへんで。
 ここんとこハードワークやったしな」

リィンが慌ててはやてに謝ります。
そんな彼女に、はやては母親のような表情をしていたわっていました。
そういや、しばらくエリオとキャロと会っていないな。
暇でも出来たら会いに行こうかなと私は考えていました。
不意に、執務室の扉から音が聞こえました。

「どなたですか?」

「フェイトちゃん?
 いや、フェイト執務官の方がよろしかったかしら?
 はやてちゃんがこちらにいると聞いたものだから……」

「シャマル!?
 どうぞ中に入ってください」

部屋に入ってきたのはシャマルとザフィーラ。
シグナムとヴィータと共に派遣され無事に帰還した二人……
いえ、この場合は一人と一匹の方があっているのかな?
一人と一匹の姿を見たはやては、そちらの方に向かっていきます。

「シャマル、無事やったんやね」

そういいながら、シャマルに飛びつくはやて。
シグナムやヴィータの事もあり、無事に帰還できたシャマルとザフィーラを確認できたはやては嬉しそうです。

「主よ、申し訳ない」

「ええよ、ザフィーラ。
 無事に帰ってきてくれたらな」

ザフィーラの言葉に反応したはやては、ザフィーラの頭をなでていたわっています。

「シャマルもザフィーラも無事でなりよりですぅ」

「リィン、貴方も無事でなによりよ」

「主に迷惑はかけなかったか?」

リィンも二人が無事だったのか喜んでいます。
ザフィーラの一言に、一瞬ムッとした表情を浮かべていますが。
そんな彼女に私は苦笑していました。

「それでシャマル、シグナムとヴィータは?」

「ええ、指揮してた武装隊全てと共に転移魔法に巻き込まれたの……
 リンディさんから報告を受けたなのはちゃんと同じ。
 私は後方支援で、ザフィーラは私の援護をしていたおかげで巻き込まれずに済んだんだけど……」

「そうか……」

シャマルの報告に沈痛な表情を浮かべるはやて。
だけど、心配していたところでなにも変わらない。
なので、私はシャマルに当時の状況を確認します。

「シャマル、執務官として質問したいんですがよろしいでしょうか?」

「ええ、構いません。
 ああ、これを……」

そう答えながらもシャマルは制服のポケットからディスクを一枚取り出し私に差し出しました。

「これは?」

「私たちの現場で起きた事をまとめたデータです」

「あっ、ありがとうございます」

私は頂いたディスクを端末に表示させます。
ディスクから映し出された映像は、機動兵器との交戦から転移魔法発生まで克明に記録されていました。
私とはやてはその映像を食い入るように視聴しています。

「姿形は違うけど……」

「転移魔法の術式は、うちらが見たのと似とるな。
 それに……」

「攻撃方法も似ているね。
 空を飛んでいるか、飛んでいないかの違いだけ……」

そう、記録された映像の中に映し出された機動兵器と私たちが交戦していたヴォルクルスはあまりにも似ていました。
姿形は違うし、飛行能力の差もあるのですが……
攻撃方法があまりにも共通していたのと、転移魔法の術式が同じ。
そして、赤い宝玉と青い宝玉が存在しているのも同じ……

「もしかして、それぞれタイプ別に作成された物かもなぁ〜」

「陸と空でって事?」

「そうや。
 考えてもみ、兵器ってそれぞれ特化するやろ?」

「……確かに」

なのはが消える直前に言っていた。
ヴォルクルスは複数存在すると……
だけど、タイプが違う物が存在するとは予想していませんでした。
でも、兵器として開発されたなら存在していても可笑しくは無い……
詳しい情報はまだ入ってきていないのですが、私たちと似たような状況に他の場所でも起きています。
私たちを含めて同事件は五つも発生……
それ全てが違う姿かどうかはまだ分かりませんが……
同じく画面を食い入るように見ていたはやてが何かに気づいたのか反応をしめしました。

「ある意味、なのはちゃんが今回の鍵になるかもしれんな」

「えっ?」

はやての呟きに私は聞き返しました。
はやてはと言うと、画面を見ながら私に指摘します。

「フェイトちゃん、右があたしらが対戦したヴォルクルスの転移魔法の術式……
 それで、左がシャマルたちが対戦した機動兵器の転移魔法の術式や」

「それで?」

「その二つ画像を術式だけ重ね合わせてみ?」

はやての言うとおりに、二つ表示された転移魔法の術式の映像を重ねあわせてみます。
二つの画像を重ね合わせた時、凄い違和感を感じました。

「えっ、これって!?」

「その通りや」

私は、はやてが何が言いたかったのか理解し驚愕しました。
そう、二つの転移魔法の術式は完全に一致したのです。
座標指定魔法の場合、本来同じ場所に指定しなければどっかしら差異が確認されるはず。
その差異が確認出来なかったとなると、同じ場所に転移したのが確実。
つまり、なのはが飛ばされた世界に転移しているということ。

「他の場所で発生した事件を記録したデータも調べなければあかんけど……」

「残りも十中八九、なのはが飛ばされた先に転移している可能性が高いね」

「そうや」

転移魔法自体はタイムラグが発生するため、同時に転移魔法が発動しても転移先に出現する時にはある程度差がでる。
だから、その差の間で私たちがなのはを見つけ合流できるかどうかにかかっている。

「なのは、頼むから無謀な真似だけはしないでね……」

私は、なのはの性格に一抹の不安を抱え天上を見ながら祈るように呟いたのでした。
あの事故以来、ある程度自制をしているのは分かっていますが……
それでも、なのはは状況によって無茶をします。
ただでさえ、私たち三人がかりで倒せなかったアレを一人で相手するのは、明らかに無謀だから……

「なのはちゃん、責任感がちょーばかし強すぎるからな。
 それに……」

「うん。
 なのは、何でも抱え込んでしまうから……」

なのはは滅多な事で他人を頼ることをしない。
特に、自分で抱え込んでしまった問題には……
それが、時に自分を追い詰めることになってもなのはは自分で解決しようとする。

「もう少し私たちを頼ってくれても良いのに……」

「そうやな〜。
 でも、それはフェイトちゃんにも言えることやで」

「えっ?」

「フェイトちゃんも、なのはちゃん同様一人で抱え込みすぎやってことや」

はやての意外な一言に私は真っ向から否定できませんでした。
確かに、はやての言うことにも一理ありましたから。
でも、それははやてにも当てはまる事で……

「そんな!?
 はっ、はやてだって……?」

「あたしは、この子たちがいるさかいな〜
 しっかり、協力してもろうとるよ」

はやての勝ち誇った顔に、私はぐうの音も出せませんでした。

「でも、はやてちゃんも抱え込むことはありますね。
 なのはちゃんやフェイトちゃんに比べたら少ないですが……」

「主は、一度決めたら最後までやり通すからな」

「そっ、それはやな〜」

シャマルとザフィーラの言葉に、慌てて反論しようとするはやて。
頻度の度合いは違いますが、やっぱり私たち三人は似たもの同士です。
だからこそ今まで友情を築いていけたのかなと思うわけで……
不意に、連絡端末が表示され、画面には私の補佐官であるシャーリーが表示されています。

『フェイトさ……
 いえ、フェイト執務官』

「シャーリー、どうしたの?」

『リンディ提督からの連絡です。
 なのはさ……
 いえ、高町教導官の居場所がわかりました』

「!!
 ほっ、ほんとなの!?」

シャーリーに一言に私は驚愕しています。
はやても喜びと驚きが入り混じった表情をしています。
他のみんなも……
さっきまでの暗い雰囲気がものの見事に吹き飛びました。

『はい。
 それで、詳しい打ち合わせをしたいからリンディ提督の執務室に来て欲しいとの事です。
 ついでに、はやてさ……
 いえ、八神三等陸佐とそれに関わる人も来て欲しいとの事です』

「シャーリー、連絡ありがとう。
 母さ……
 ううん、リンディ提督に直ぐに行くと伝えてくれる?」

『了解しました』

そして、シャーリーとの通信は終了。
私とはやてとその家族は母さんことリンディ提督の執務室に向かいました。
すでに私の心には不安はなく、一刻も早くなのはと合流する事だけを考えていました。



はやて' View

なのはちゃんの居場所が判明したと連絡を受けたあたしたちは、リンディさんの執務室に向かいました。
リンディさんの執務室には、リンディさんと既に来ていたクロノ君と……
精悍な顔つきをした男性の方がいました。
見た目は30歳過ぎぐらいなのですが、鍛えておられるのか非常に身体つきが良いです。
服装からして、航空武装隊所属なのは分かるのですが、私は一度もお会いしたことはありません。

「八神三等陸佐ただいま参りました」

「テスタロッサ・ハラオウン執務官、参りました」

リンディさんやクロノ君だけならこんな堅苦しい挨拶はしないんやけど……
流石に会ったことも無い人の手前、区別はつけなかあかんわけでして……
そう思ったんですか、当のリンディさんがあっさり雰囲気を崩壊してくれました。

「はやてさんに、フェイト……
 そんなに硬くならなくてもいいわよ」

そういってニコニコと笑うリンディさん。
方やクロノ君はというと、完全に呆れています。
そして男性の方も苦笑しています。

「ですが、母さ……
 リンディ提督、私たちが会ったことも無い人の前で……」

フェイトちゃんも流石に常識をわきまえてるのかリンディさんに抵抗しているようですが、リンディさんは意に返してません。

「まぁ、確かに直接会うのは初めてよね。
 こちら、航空武装隊総司令兼航空戦技教導隊総隊長・御神静馬提督」

「初めまして。
 御神静馬です、よろしく」

そういって御神提督はあたしに右手を差し出してきました。
あたしは慌てて挨拶をしました。

「やっ、八神はやて三等陸佐です。
 御神提督の評判は聞いております」

あたしは御神提督と握手をしながら考えていました。
御神静馬提督……
13年前、突如ミッドチルダに現れてリンディさんが保護。
時空管理局で調べた結果、出身世界は不明……
当時、御神提督出現と同時に第67管理世界が管理局のレーダから消失。
その為、ここの出身ではないかと噂にはなっています。
そして、この方もまた類を見ない魔力保持者であり瞬く間に局内に名前を轟かせ、わずか8年で提督まで上りつめた。
今では、「伝説の三提督の後継者」とか「管理局の英雄」などの二つ名で呼ばれる存在です。
また、人格者でもあり当時腐敗していた航空武装隊を提督に着任すると同時に腐敗の元凶を一掃。
今では実力と人格が伴わないと航空武装隊では上に行くことが出来ないシステムをこの方を支持する人たちと共に作り上げた。
実際に戦闘技術も凄く、陸戦Sクラスの魔導師と魔法無しで対等に渡り合えるとのもっぱらの評判。
もっとも、この為陸の将校たちとの関係は悪いらしいですが……
それにしても、こんなに紳士な方だったとは思ってもおりませんでした。

「はっ、初めまして。
 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

フェイトちゃんも慌てています。
というより緊張しています。

「まぁ、二人とも他の場所なら兎も角、ここでは御神おじさんでかまわないよ。
 リンディさんとは付き合い長いからね」

「いっ、いえ、そんな、滅相なことは……」

フレンドリーに話してくる御神提督に遠慮するあたし。
フェイトちゃんもダンマリになっています。
クロノ君が何も言わなかった理由がわかりました。
流石に大人二人を敵に回せなかったようです。

「さてと、積もる話は後にして……
 フェイト、はやてさん、シャマルさんは席について待っていて。
 お茶準備してくるから」

「母さん、私も手伝うよ」

「わかりました、リンディさん」

「それじゃ、遠慮なく」

あたしとシャマルはリンディさんの言葉に甘えて席につきます。
フェイトちゃんは、リンディさんを手伝いに行きました。

「え〜と、御神提督」

「なんだね、はやて君?」

「なのはちゃ……
 いえ、高町教導官の事はご存知ですか?」

「ああ、彼女の事は知っているよ。
 直接話した事はないけどね。
 中々評判が良いんで、上司としても嬉しい限りだ」

そういって嬉しそうに話す御神提督。
やっぱり、なのはちゃんの評判は良いようです。

「それと、君の部隊構想の事も聞いているよ」

「あっ、そうなんですか。
 それで……」

「流石に無期限で出向は無理だな。
 現状、教導隊員はあちこちに出張っている状況だから、ハッキリ言って人手が足りない。
 それにSランク以上の人材はどこも貴重だ」

御神提督の意見もごもっとも。
確かにあたしの部隊構想は虫のいい話。
でも、なのはちゃんとの約束もあるから……

「だけど、現場に出向して事件を解決しながら隊員を鍛えるという案は私は賛同している。
 実際に実戦を潜り抜けたほうが学ぶことが多いからね」

「!!
 では」

「期限付きでの出向は認めるよ。
 リンディさんからのお願いでもあるしね」

御神提督も条件つきながら、あたしの部隊構想に賛同してくれている。
これならきっとあたしが追う事件も解決できる。

「それで、期限は……」

「長くて一年だな。
 彼女の場合、他の部隊でも人気があるから」

「そうですか。
 ご協力感謝致します」

まぁでも、一年専属で出向してもらう事が出来るから文句は言えない。
その間にしっかり鍛えてもらえれば実行部隊として問題はないし、あたしの子たちに任せても大丈夫。

「お待たせ〜」

準備が出来たのか、リンディさんとフェイトちゃんがお茶を持ってきました。
そして各自に行き渡ったのを見計らってリンディさんが話し出しました。

「はやてさん、静馬さんとなにやら話していたようだけど?」

「ええ、部隊構想の件で……」

「ああ、なのはさんの出向期限の話ね」

リンディさんは私の言葉に納得したように答えました。
一番のネックだったなのはちゃんの出向問題。
リンディさんに頼んで強引に行なった為、怨まれるのではと心配していたのですが……
でも、御神提督のおかげで解決しました。

「フェイトも、たぶん一年の期間限定になるわね」

「やっぱり、そうなんですか?」

「ええ、提督会議でねSクラス以上の人材を一箇所に固めるのは勿体無いのではって意見が出ているのよ」

「それも、能力リミッター設定してまで価値はあるのかってオマケ付きでな」

リンディさんの話に、御神提督も合わせてきます。
確かにSクラス以上の人材は貴重なのは分かっています。
そして部隊保有規定で能力リミッターを使用しなければならない事も……
ですが、あたしはあの航空火災の時みたいに迅速に対応できないのは嫌です。
だからこそ、信頼できる人材で固めた部隊を作りたい。

「だが、はやて君の気持ちも私はわかる」

「えっ?」

「私も君と似たような気持ちで部隊を立て直したわけだしな」

「静馬さん、かなり無茶をやりましたからねぇ」

「私の場合は三提督のお墨付きを頂いたおかげでかなりスムーズに進みましたけどね」

リンディさんは懐かしそうに思い出して苦笑している。
御神提督も釣られて苦笑していました。
確かに御神提督は航空部隊の腐敗を一掃している。
やっぱり思うことがあっただなと感じるわけで……

「だから、はやて君。
 こちらとしても出来る限りの協力は惜しまないつもりだ」

「あっ、ありがとうございます」

あたしは幸せです。
あたしの考えを理解してくれる方が上の方にも居られることにとても感謝致しました。

「ところで、リンディ提督、御神提督。
 そろそろ本題に入るべきかと……」

「相変わらず硬いな、クロノ君は」

「もう少し柔軟に対応しないと疲れるだけよ」

クロノ君の言葉に苦笑して対応するリンディ提督と御神提督。
どうも、クロノ君と御神提督は面識あるみたいです。

「そっそれで、なのはの居場所はどこなんですか!?」

逆に慌てて聞くフェイトちゃん。
妙に微笑ましいというかなんというか……
でも、あたしもなのはちゃんの事は気になる話。
そしてフェイトちゃんの言葉に反応したリンディさんは真面目な表情をしました。

「なのはさんが発見された……
 というより、なのはさんのデバイス・レイジングハートからの救難信号をキャッチした場所なんだけど……」

「何か問題がある場所なんですか?」

リンディさんがこんな表情になるということはかなり大きな問題だという事。
つまり、なのはちゃんの居場所がかなり問題になる場所だと判断致しました。
そしてリンディさんは話を続けます。

「第67管理世界「地球」……
 ここから、レイジングハートの救難信号が発信されています」

「!!」

「そこって!!」

第67管理世界「地球」……
御神提督の出身世界だと思われる場所。
だけど、あれは管理局のレーダから消失したって聞いていたのですが……

「そう、御神提督の出身世界だと思われる場所。
 そして、管理局のレーダから消失していた場所……
 だったんだが……」

「まっ、まさか!?」

フェイトちゃんが驚いて聞き返しています。
あたしはというと驚いていますが、ある程度予測が出来ました。
レーダから消失した世界。
そこから、なのはちゃんの救難信号をキャッチ。
それは……

「なのはの救難信号をキャッチする少し前に、第67管理世界の反応が出現した」

つまりこういうこと。
何らかの理由でその世界を管理局のレーダ探知を遮断していたということ。
そして、遮断を停止したということは何らかの動きがあるということ。
でも、そもそも第67管理世界ってどういう世界なんだろう……

「え〜と、質問いいですか?」

「何でしょう、シャマルさん」

「第67管理世界ってどういった世界なんです?」

シャマルの質問にみんな興味津々。
あたしも興味ありますし。
リンディさんは、お茶を一口飲み話を続けます。

「そうねぇ……
 魔法レベルだけで言えば、なのはさんの出身世界、第97管理外世界と大差はないのだけど……」

「でも、管理しているとなると何かしら意図があるわけですよね、母さん」

そう、基本的に管理する場合は魔力の有無が重要になってくる。
なので、魔力が無い世界を管理しているとなるとそれなりの理由があるはず。

「そう、第67管理世界は……
 魔法に匹敵する能力者が存在する世界なの」

「えっ!?」

まさか、魔法に匹敵するだけの能力者が存在しているとは思っても見ませんでした。
あたしだけじゃ無い。
フェイトちゃんも、シャマルも、リィンも驚いています。
ザフィーラは何か思うところがあるのか黙って聴いていますが。

「まぁ、なんだ。
 実際、御神提督が陸戦Sランクの魔導師たち相手に魔法無しで勝っている事もあってな……
 御神提督の出身世界ではないかって話は上がっている」

「クロノ君?
 間合いと弾道さえ見切れれば普通に対応できると思うが?」

クロノ君は、実際に御神提督が陸戦Sランクの魔導師たちを倒しているのを見たことあるのか第67世界に関してある程度理解しているみたい。
もっとも、御神提督は自分が化け物と呼ばれているのが不満なのか反論していますが……
あたしは、御神提督の戦いぶりを見たこと無いので何も言えません。
クロノ君は御神提督の反論に苦笑するだけで話を続けます。

「まぁ、それは兎も角……
 なのはが発見された場所にヴォルクルスの転移反応があったと報告も上がってきている」

「!!」

確かに、なのはちゃんが出現した場所にヴォルクルスの転移反応があるのは確実。
そして、シグナムやヴィータと共に転移した物も行き先は同じ……

「さらに、他の場所でも発生した転移魔法の術式も一致したそうだ」

「!!」

なら、5体は確実に同じ世界に転移するということ!
なのはちゃんはかなり危ない状況にいるということになる!!

「現在、もう1体の転移反応が第67管理世界で発生したとの確認も取れている。
 もっとも、ヴォルクルス共々ロストしているそうだが……」

「なのはが2体とも倒したのかな?」

「それは無理とちゃうんか?
 あたしら三人で束になって、アレだけのダメージしか与えられんかった代物なんやから」

「でも、なのはの反応はしっかりしてるんでしょ?」

「確かにな〜。
 今の所、なのはちゃんは心配あらへんで」

機体反応がロストしているのは気になる事です。
あたしらがボロボロにしたヴォルクルスなら、なのはちゃんだけでも倒せる可能性はあると思う。
だけど、あたしら以外にそこまでダメージを与えたって報告はないさかい、楽観視は出来ない。
でも、なのはちゃんの反応は今でもしっかりしているさかい、問題はないとはおもうんやけど……

「残り3体の状況もあることだし、今回の事件解決の責任者は三提督の指示の下、御神提督が取ることになりました。
 クロノ提督は御神提督の指揮下に入り久しぶりに現場へ復帰、フェイト執務官、はやて三等陸佐と共になのは教導官と合流。
 そして、謎の機動兵器の破壊が今回の任務になります」

「回収ではなく、破壊ですか?」

「ええ、回収では無く破壊。
 なお、今回の判断は三提督の意志も含んでいます」

ロストロギアに関して、基本は回収。
どうしようも無い場合のみ破壊指示がだされるんですが……
今回は最初から破壊の指示が出されています。
つまり、上層部は今回の機動兵器をかなり危険視しているということです。

「ということは、今回発生した機動兵器はかなり危険だと判断したということですね?」

「ええ」

リンディさんは真剣な表情で肯定します。
そして、クロノ君が久々の現場復帰となる事にも事態の深刻さを物語っていました。

「そして、君たちに伝えなければならない事がある」

「御神提督?」

御神提督の言葉にフェイトちゃんが反応しました。
あたしも御神提督の顔を直視しています。
リンディさんとクロノ君は黙って聞いています。
そして御神提督は話を続けました。

「三提督から聞いた話しだが、君たちが戦ったのは量産型……
 そして、オリジナルが別に存在している」

「!!」

「なんですって!?」

御神提督の言葉にあたしもフェイトちゃんも絶句。
いや、あたしの子たちも同じく絶句していまいす。
あたしら三人でアレだけダメージを与えたのが量産型……
それを上回るオリジナルが存在しているということ。
今回の事件はかなり大きな事態になってきました。

「……三提督は知っているんですか、あの機体について」

フェイトちゃんの疑問はもっとも。
あたしたちが知りえない情報を三提督が知っているのは不思議じゃないんだけど……
それでも、今回の報告である程度予測は付いたので対応できたのではないかと思ったのですが……

「約50年前の話だそうだ。
 三提督が現場で活躍していた頃、似たような騒動があったそうだ。
 だが、三提督の活躍でもオリジナルは完全に破壊できず、一人の英雄を犠牲にしようやく破壊できたそうだ」

「!!」

嘘、あの三提督が束になっても破壊できなかった代物だったとは……
でも一人の英雄を犠牲にって……

「ミッドチルダで有名な名も無き炎の英雄の話だ」

「聞いたことがある、炎の精霊王と契約した英雄が自らの命と引き換えに世界を救ったって話でしょ?」

クロノ君の話にフェイトちゃんがあわせる。
あたしも聞いたことはある。
ミッドでは有名な英雄譚であり、ミッド南部にはその英雄像が祭られている。

「だが、実際には命は取り留めることはできたんだ。
 もっとも二度と戦える身体にはならなかったそうだが……」

つまり、三提督の話が真実なんだろうと思う。
物語は噂や評判によって創作されて真実を覆い隠す。
だけど、三提督にとってはそれでも心に刻み込んでいる傷なんだろうなと思う。
だからこそ、回収じゃなくて破壊の指示を出したことにあたしは納得しました。

「もっとも、今回のが量産型だと判明したのは無限書庫に残っていたデータからなんだが……」

「つまり、当時は量産型とオリジナルの区別が付かなかったわけですね?」

「そういう事だ」

フェイトちゃんの言葉に御神提督は肯定します。

「でも、今回はその精霊王の力を宿した人はいない……」

「無限書庫のデータでも、地の精霊王、水の精霊王、風の精霊王の記述はあるが……
 それ以上の事は一切記載が無い。
 今でも四精霊王はミッドチルダで信仰されているので記述ぐらいあるかと思ったのだがな。
 そして、ヴォルクルスが製作された理由も不明だ……」

はっきりいって八方塞の状況ではないのでしょうか?
御神提督の技術ランクはSSS……
だけど御神提督は余程の場合以外出撃は出来ない。
クロノ君と私はSS、なのはちゃんやフェイトちゃんはS、あたしの子らのランクもSに近い……
そして、今回は三提督からの直接命令でもあるため能力リミッターの設定が無いのはいいですけど……
本当にこのメンバーだけで対応できるかは疑問です。
ですが、この時は思っていませんでした。
なのはちゃんが本当の意味でこの事件の解決する鍵になるとは……
いえ、なのはちゃんがこの事件の解決の鍵を見つけていたとは……


なのは's View

ヴォルクルスを撃破して既に10日になります。
その間、私と恭也君は他の量産型やオリジナルを探していたのですが、一切反応はありませんでした。
もっとも、その間ゴーレムや幽霊みたいなものが出現して、恭也君の特訓がてら撃破していましたが。
この10日間、まったく無駄に過ごしていたわけじゃなく、暇を見つけては恭也君の魔法技術の特訓を行なっています。
また、私の近接戦闘回避術の向上の為、恭也君に師事してもらいました。
え〜と、恭也君……
実は、人に教えるのが凄く上手いです。
私自身参考にしたいぐらい、彼の訓練プログラムは無駄がなく完成度は高かったです。
……実際に、限界ギリギリまで動かすのでキツイのは事実ですが。
そのお陰で、近接戦闘回避は向上したと実感できました。
フェイトちゃんには凄く悪いんですが、今の私なら勝てる可能性はあります。
……まぁ、近接戦闘に特化した恭也君やシグナムさんには、まだ勝てる自信はありませんがね。
そして、恭也君の方ですが……
ヴォルクルスに勝てたのが不思議なぐらい魔法構築能力が欠如していました。
シロちゃんクロちゃんが言うには……

「あにょ時にょ恭也は、恭也7割サイフィス3割の状態だったにゃ」

「つまり、恭也自身の力じゃにゃいわけで」

との事です。
ユニゾンデバイスだからそうなのかなと思ったんですが、どうもシロちゃんやクロちゃんの説明からだと違うみたい。

「ユニゾンって言うけどにゃ、実は侵食って言った方が正しいにゃ。
 そもそも、おいらたちにょデバイスはというと、デバイスという器に契約した上で精霊を取り込んでいるんだにゃ」

「それで、ユニゾンパーセントが上がれば上がるほど、マスターにょ人格が希薄ににゃって、サイフィスが具現化するんだにゃ
 もちろん、それに合わせて身体能力の向上や感覚の先鋭化もするにゃ」

「やはり、先の戦闘で感覚が鋭くなっていたのはサイフィスの影響だったんだな?」

「そうにゃんだにゃ」

つまり、はやてちゃんとリィンの関係とは明らかに違っている。
はやてちゃんとリィンのユニゾンは対等関係であり、主人格はあくまではやてちゃんだった。
だけど、シロちゃんとクロちゃんの説明だとユニゾンパーセントが上がるにつれサイフィスが主人格になるそうです。
それに合わせて身体能力の向上や感覚の先鋭化の恩恵もあるみたいですが。

「ユニゾンパーセントが50を超えたらサイフィスが主人格ににゃるにゃ」

「そして、100%ににゃった場合……
 最悪、マスターの人格が消滅する可能性があるにゃ」

その話を聞いた時、私は驚愕しました。
恭也君はというと、あの戦いで何か感じてたのか納得した表情を浮かべていましたが。

「それににゃ、ユニゾンしている間はマスターの体力と魔力の消費が大きいにゃ」

「そして、ユニゾンパーセントを上げれば上げるほど体力と魔力にょ消費が激しくにゃるにゃ」

「早い話、持久戦は不利だって事だな?」

「そうにゃんだにゃ」

私は思いました。
恭也君のデバイスは諸刃の剣なんだと。
確かに利点があれば欠点はあるのは当たり前なんですが。

「実際に、100%になった状態で無事だった例はあるのか?」

「二人だけだけど、いるにゃ。
 初代マスター、ランドール・ザン・ゼノサキス……
 まぁ、サイフィスと契約してデバイスを作成した人物だから当たり前にゃんだけど」

「そして、前回のマスター、マサキ・アンドーにゃんだにゃ。
 こっちはというとにゃ、100%に耐えれるだけにょ身体能力があったからにゃんだ」

「その他は?」

「命の別状にゃい場合でも、二度と戦えにゃい身体ににゃったにゃ……
 最悪の場合、精神崩壊ににゃったにゃ」

「まぁ、精神崩壊ににゃったにょは人格に問題があるマスターでにゃ、サイフィスがキレて乗っ取ったってにょが真相にゃんだ」

「え〜と、サイフィスがキレて乗っ取ったって……」

余程酷いマスターだったのかなと思うわけですが、やっぱり恐怖を抱くわけで……
だけど、妙に人間味のある精霊です。

「力に溺れた挙句、アレを自分の物にしようとしていたからにゃ。
 自業自得にゃんだにゃ」

「弁護の余地はにゃいんだにゃ、精神崩壊した連中はにゃ。
 早い話、契約不履行にゃんだにゃ」

なんとまぁ、現実的な話なんでしょう。
確かに契約を不履行にしたら、手痛いしっぺ返しが来るのは事実ですけど……

「命の別状がにゃい場合の方はにゃ、単純にマスターの身体能力が100%に耐えられにゃかったからにゃんだ」

「もっとも、こっちの場合はマスターとの合意の上で100%ににゃっているから覚悟の上にゃんだけどにゃ」

つまり、それほどまで追い詰められていた状況だと分かります。
私がもし選ばれて使用しなければならない状態になったら、躊躇わないと思います。
そして恭也君も同じ……

「最初に契約したランドールは分かるが、マサキが無事だったのは?」

「それはだにゃ、マサキの身体能力が他のマスターに比べて優れていたってのもあるんだけどにゃ」

「人格消滅ギリギリまでに決着をつけてサイフィスと強制解除したからにゃんだにゃ」

100%イコール人格消滅ではないようで、ある程度余裕はあるようです。
つまり、人格消滅までの時間内で決着をつけれるか否かにかかっているわけです。

「実際に消滅するまでの時間は?」

「個人差にもよるんだけどにゃ、約10分にゃんだにゃ」

「マサキと時も、だいたいそんな時間だったにゃ」

「なる程、了解した」

恭也君は覚悟を決めたのかやけに吹っ切れた表情をしていました。
私は、そんな恭也君に見惚れていたような気がします。
それで、現時点での問題はというと恭也君自身が魔法を覚えていない状態。

「現時点では、俺は魔導師になったばかりの役立たずなわけなんだが……」

「恭也は近接戦闘は問題にゃいけど、中長距離戦は完全にあにゃににゃってるにゃ。
 サイフィスとの融合は出来るだけやらにゃい方がいいからにゃ」

「そういうことにゃので、恭也はにゃのはに訓練してもらうにゃ」

と言う事になり、恭也君の魔法技術修得訓練を行ないました。
恭也君の魔法資質はベルカ式の近距離特化型かなと思ったんですが、実はミッド式のオールランダー型でした。
これはシロちゃんとクロちゃんが判定してくれた結果ですけど。
そういうこともあり、元々恭也君の魔法資質は遥かに高い為、サイフィスと融合しなくてもそれなりの戦力にはなると思っていたのですが……
まぁ、10日間の成果ですと、中距離攻撃魔法2種類、拘束魔法、防御魔法、飛行魔法まで修得済み。
何とか、中距離戦でも対応は可能になっています。
ユニゾンしていない状態限定ですが中距離長距離限定では今の所、私の方が模擬戦で勝ちを拾っています。
近距離限定及び全距離対応した場合は完全にぼろ負けですけどね。
恭也君は間合いを取るのが上手いですから、近距離に入られた時点で私の勝ちはなくなります。
本当は長距離魔法や中距離魔法の種類を覚えさせたかったのですが、いかんせん恭也君の魔法構築能力は異常に低いのでなかなか具現化できないんです。
もっとも、具現化した魔法に対して追加能力の付与や制御は集中力がとんでもないので優れているんですけどね。
まぁ、そんな訳で私は縁側で今までの事を思い出しながら一休みしてたわけです。
そして、私の身体も那美さんのおかげで完全に完治しました。
私自身、身体が凄く軽く感じます。
それでも、あんな事は二度と引き起こすつもりはないんですが……
今まで恐怖心とも戦っていた事もあり、完治した今では幾分心に余裕がある状態で戦闘に望めそうです。

「ただいま」

玄関から声が聞こえて来ました。
どうやら恭也君が大学から帰ってきたようです。

「あっ、おかえり〜」

他のみんなは学校や仕事で出払っていますので、今この家には私しかいません。
そして縁側に来た恭也君の表情を見ていたのですが、やけに硬い表情をしていました。
恭也君の前にはシロちゃん、クロちゃんも一緒。
私は疑問に思い恭也君に聞いてみます。

「何か、あったの?」

「あぁ、サイフィスがヴォルクルス量産型の反応を確認した。
 海鳴よりかなり南、東京だ」

「!!」

恭也君はあっさりと確認したことを話しました。
量産型がまた発生した。
それ自体は問題ないと思う。
先の戦いでも、二体分を二人で倒せたから……
だけど、妙な違和感が私に付きまとう。
恭也君も何か感じたみたいでした。

「嫌な予感がするな」

「そうだね」

だけど、私と恭也君は立ち止まるわけにもいかない。
放っておいたら被害が増えるだけだから。

「準備が出来次第、確認した場所に向かう」

「うん」

そして、私と恭也君はバリアジャケットを身にまとい高町家から出撃した。
激戦になる予感を感じながら……
だけど、嫌な予感はするけど不安にはならなかった。
隣に恭也君がいてくれるから……
私の中では恭也君の存在が大きくなっていくのを感じていました。



クロノ's View

僕たちは今、XV級新造艦クラウディアで第67管理世界「地球」に向かっていた。
元々アースラスタッフがそのままクラウディアに移行するはずだったのだが、今回の事件解決のため御神提督が指揮を取っている。
もっとも、見知った人物だし数少ない信頼できる人物なので特に問題は無いのだが。
この人もどちらかといえば母さん・リンディ提督よりな性格をしている。
まぁ、母さんよりかは落ち着いているので遥かにマシではあるが……
フェイトとはやては訓練室にこもりっきりである。
特にはやての方が問題だった。
シグナムとヴィータが行方不明で未だに情報は皆無。
表向きには元気な表情をしているが、かなり心は疲弊していた。
それを紛らわせる為にフェイト共々訓練を行なっている。
僕も時間があれば間隔を取り戻す為に二人の相手をしているが、実際報告書の作成やデータの解析でめまぐるしく忙しい。
フェイトも手伝ってはくれるのだが、流石に機密書類の類になると僕自身がやらない事には話しにならない。
それに、公私両方ではやての相手を出来るのがフェイトだけだった事もある。
そして、まとめ終えた書類を御神提督へ届ける為に執務室へ向かった。
僕が執務室へ入った、御神提督が懐かしそうに写真を見ていた。

「クロノ君、ご苦労」

「いえ……
 ご家族ですか?」

「あぁ、13年前のな」

その写真には、若かりし頃の御神提督と嫁さんらしき人、娘さんらしき人が写っていた。
13年前の写真ということは、娘さんはフェイトたちと同年代ぐらいに成長しているはずだ。
……どこかで見たような気もするが、気のせいだと思う。

「可愛い娘さんですね」

「当時はな……
 今は顔も覚えていないんじゃないかと思う」

御神提督がミッドに現れた時の話は僕と母さんしか知らない。
その話とは、当時御神提督は宗家の頭首として親戚の結婚式を仕切っていた。
だが、御神家を怨む組織のどこかがその結婚式を狙って爆弾テロを画策、実行。
その時、死を覚悟していた御神提督は気づいたらミッドに居た。
御神提督の出現前後に次元震が発生していたのは調査してわかっていたので、おそらく偶然、次元震に取り込まれたんだと思う。
実際に御神提督は大火傷を負っていた。
その事もあって、御神提督の話は真実だと確信し母さんは保護した。
もっとも母さんは、亡くなった父さんの面影を御神提督に重ね合わてたみたいだが……

「でも、生きておられるわけでしょ?
 きっと会えますよ」

「そうだと良いのだがね」

僕の慰めの一言に苦笑する御神提督。
それでもこの部屋に漂う空気は悪くなかった。

「ところではやて君は大丈夫なのかね?」

「表向きは大丈夫そうに見えますが……
 実際はかなり参っているようですね」

「そうか」

御神提督もはやての事を気にしていられる。
実際に生き別れた御神提督だから、重ね合わせているのかもしれない。

「……だからといって我々が立ち止まっているわけにもいかない」

「はい」

御神提督の真剣な表情に、僕は黙って肯いた。

「そろそろ艦橋に行こうか。
 もうすぐ目的地につく頃だろうから」

「そうですね」

御神提督と僕は執務室を後にし、艦橋に向かった。
艦橋についた時、第67管理世界「地球」が見えてきた。
そして僕は驚いた。
そう、なのはが居た第97管理外世界「地球」と瓜二つだったことに……

「まさか、地球の形まで同じだったとは……」

「私は第97管理外世界の事は知らないから判断できないのだが……
 君がそんなに驚くと言うことは、そっくりなのだろうな」

御神提督は関心するように呟いて、そのまま提督席に着席した。
僕は御神提督の側に立っている。
艦橋スタッフが僕たちに気づいて敬礼をし、御神提督と僕は返礼をしていた。
不意に後部にあるドアが開いた。
フェイトたちが来たようだ。

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官、入ります」

「八神はやて三等陸佐、入ります」

そういって挨拶する二人とそのお供である二人と一匹が艦橋に入ってきた。
そして、フェイトたちもまた目の前に写っている「地球」の姿をみて驚愕していた。

「うそっ、第97管理外世界と瓜二つだなんて……」

「うわぁ〜、こりゃたまげたわ〜」

二人と一匹も声には出さないが驚いている。
知っている人間なら驚くのが普通だ。

「並行世界……
 限りなく近くそして遠い世界……
 第67管理世界と第97管理外世界との関係はそんな所だろう」

「並行世界ですか」

御神提督の意見に、僕は否定できずにいた。
ある科学者が提唱した理論「並行世界」。
あまたの次元世界で限りなく近くそして遠い世界が存在するという意見。
発表当時は否定意見のオンパレードではあったが、研究が進むにつれ肯定意見が多くなってきた。
だが、僕の目の前で実証する事になるとは思ってもいなかった……

「クロノ君、フェイト君、はやて君……」

「はい?」

「なんでしょうか?」

「なんですか?」

不意に御神提督が、僕とフェイト、はやてを呼んだので僕たちは御神提督の方向を向いた。
御神提督は僕たちを確認するように見て、それから話し出した。

「高町なのは二等空尉の家族の事なんだが……」

「なのはの家族ですか?」

御神提督は唐突になのはの家族の事を話し出した。
僕は御神提督の意図が分からず聞き返した。
だが、御神提督から話された事に僕は驚愕することになる。

「高町士郎、高町恭也、高町美由希……
 この三名は私が知っている人物と年齢は違うが、姿がそっくりなんだ」

「!!」

「えっ!!」

「なんですって!?」

フェイトもはやても驚愕している。
だが、僕は御神提督の言葉で引っかかっていた答えが見つかった。
なのはの姉、美由希さんの姿が御神提督の娘さんに似ていた事に……

「まさか、御神提督の娘さんの名前って……」

「ああ、美由希だ。
 だが、第97管理外世界に住んでいる美由希と年齢が違っている」

「確かに、次元震に巻き込まれたとは言え、数日の誤差は確認されていますが、数年も飛ぶって事象は聞いたことありません」

「うむ。
 もし私が第67管理世界の出身だと確定できるとしたら、そこに存在する不破士郎、不破恭也、御神美由希の年齢が鍵を握るわけだ」

事実、次元震に巻き込まれて他次元に出現するって事象は少なからずあった。
そして、たいていの場合は1週間ぐらいの誤差、大きくても1ヶ月以内のズレしか確認されていない。
だから、御神提督の言うとおり、第67管理世界が御神提督の出身地なら娘の美由希さんは17歳ぐらいになっているはずだ。
そんなことを思っていたのだが、不意に艦全体に緊急警報が発令された。

「御神提督!
 第67管理世界「地球」に転移反応発生!
 数1です!」

「!!
 総員、第1種戦闘態勢に入れ!
 クロノ・ハラオウン提督はここで待機、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官、八神はやて三等陸佐及び守護騎士は現場に急行せよ!」

「はっ!」

「了解しました!!」

「了解です!!」

御神提督の指示の下、フェイトとはやて、そして守護騎士たちはクラウディアから出撃した。
僕は御神提督の指示で艦橋に待機している。

「御神提督……」

「クロノ君、今はここで現場を見ていてくれ……
 何やら凄く嫌な予感がするのでな、時期を見計らって君を出撃させる」

「了解しました」

御神提督は何かを感じたようだった。
その為、最初から全戦力を出さずに僕を温存。
切り札として使うつもりだと僕は判断した。
僕が同じ立場なら、同じ判断をしたと思う。
だけど、この戦いが大きな試練と鍵を握るとはこの時思ってもいなかった。



フェイト's View

私たちは御神提督の指揮の下、転移反応が発生した現場に急行していました。
現場についた時、既に空には魔法陣が展開されいつでも出現する状態でした。
そして、この禍々しい魔力は忘れることはできません。

「はやて……」

「うん、わかっとる。
 この魔力……
 忘れることはできへんからな」

はやても魔法陣を睨みながら私の言葉に続けてきました。
そう、なのはが転移することになった原因。
ヴォルクルスの魔力と一致していた。
はやてを護るように、ザフィーラが前衛で待機。
シャマルははやての後方で待機しています。
そして、魔法陣の輝きが最高潮に達したとき、ヴォルクルスが出現しました。
私たちと戦ったのとは別タイプ……
空戦仕様のヴォルクルスですが。

「この形は、シャマルたちが戦ったやつと同じ形」

「でも、このヴォルクルスが私たちと戦った奴と同じかまでは分かりません」

「だが、破壊することには変わりない……
 主よ!!」

どちらにしろ破壊するしかないのですが……
不意に妙な違和感を感じました。
はやても何か感じたのか、周りを見渡すように見ています。

「はやて?」

私の言葉にも反応しないはやて。
疑問に思った私ですが、違和感の正体を知り驚愕しました。
現れたヴォルクルスを護るように、女性の騎士が存在しています。
そう、シグナムとヴィータが……

「シグナム!」

「ヴィータ、無事やったんか!?」

私やはやての言葉にも何の反応を示さないシグナムとヴィータ。

「シグナム、ヴィータちゃん!」

シャマルの言葉にも反応を示しません。
それどころか、自らの相棒を抜きこちらに攻撃を仕掛けて来ました。

「うぉぉぉぉぉぉお!!」

「はぁぁぁぁぁぁあ!!」

私はシグナムと応戦し、ザフィーラははやてを護るようにヴィータからの攻撃を防ぎます。

「シッ、シグナム!?」

私は戸惑いながらもシグナムに呼びかけますが、シグナムは応じません。
それどころか明らかに理性を失っていました。
だけど、理性を失ったシグナムの一撃は今までの模擬戦で受けた一撃よりも重かった。

「シグナム、目を覚ましてください!!」

私はバルディッシュを振るいながら賢明に呼びかけます。
かつて、なのはが私にしてくれたように……
ヴィータの方も、ザフィーラが攻撃をひきつけ、はやてが説得を試みていますがこちらも上手くいっていない。
そして、シャマルがヴォルクルスの攻撃を一手に引き受けてくれています。
その為、私たちはヴォルクルスの攻撃にはさらされていないのですが、その分シャマルに負担をさせてしまっています。
なので、私は早くシグナムを目覚めさせる為に行動を開始しました。

「プラズマランサー」

私の詠唱と共に雷を伴った魔弾が私の周りに展開される。
そして、その全弾をシグナムに向けて解き放つ!

「ファイアー」

私の言葉と共に走り出した雷の魔弾はシグナムに襲い掛かる。
シグナムはレヴァンティンを鞭状に変化させ魔弾を迎撃した。
爆発の影響で一時視界が悪くなる。
だが、シグナムはその一瞬の隙を突いて私に向かって突撃してきた。

「はぁぁぁぁぁあ!!」

「くっ、シグナム!」

私はバルディッシュでその攻撃を抑える。
そして隙を突いて離脱。
明らかにこちらが不利だった。
はやても、ザフィーラを盾にしながら必死にヴィータを説得している。

「なにやってんや、ヴィータ!
 いい加減目を覚まさなあかんよ」

「あぁぁぁぁあ!!」

だけど、一向に状況はよくならなかった。
不意にバルディッシュから話しかけてきた。

《マスター、どうやら彼女らは何者かに操られているようです》

「!!」

《今までの彼女のデータと明らかに違いがあります。
 何者かに書き換えられたような形跡もみられます》

まさか、そんな事が……
でも、今のシグナムから生気が感じられない……

「はやて!!」

「フェイトちゃん?」

完全に困惑しているはやて。
だけど、状況は悪化する限り。
なので、私ははやてにバルディッシュからの報告をそのまま伝えました。

「シグナムとヴィータは、何者かに操られている」

「なっ!?」

「バルディッシュが確認したんだけど、シグナムとヴィータから何者かが書き換えた形跡を見つけた」

「!!
 まっ、まさか……
 二人の魔力反応に違和感があったのは、そういうことやったんか……」

はやても真相に気づいた。
もともと、シグナムとヴィータの魔力に異変を感じていたはやてだったので飲み込みは早い。
原因は分かった。
だけど、対応する手段が見つからなかった。

「現状、二人を気絶させるしかない見たいね」

「そのようだな」

シャマルの言葉にザフィーラが納得する。
確かに、気絶させることが出来たらチャンスはあるかもしれない。
だけど……
私に出来るの?
模擬戦でも対シグナム戦は負け越しているのに……
でも、今は負けるわけにはいかない!
私は覚悟を決めてバルディッシュを握った。

「はやて!」

「うん、わかってる。
 フェイトちゃん、シグナムは任せた!」

「うん!」

そして、再び私とシグナムとの激突が始まった。
相変わらず隙が無い。
そして力強い一撃にてこずりながらも対等に戦っていた。
模擬戦なら勝ち負けは特に問題ない。
悔しい気持ちはありますが……
だけど、今は……
私は負けるわけにはいかない!

「だから、シグナム……
 目を覚まさせる為にも勝たせてもらいます!!」

私の宣言と同時にシグナムに向けてバルディッシュを振り下ろす。
不意の付いた一撃にシグナムは後方に吹き飛んでいった。
しかし、未だシグナムは倒れない。

「流石にまだ倒れませんか……」

私がそう呟いた時に、異変が起きた。
ヴォルクルスの前に新たな人影が現れた。

「貴方こそ、人形風情が未だに壊れずにいたとわね」

「!!」

聞き間違うはずの無い声!
だけど、あの人は……
本当の母さんはもう亡くなったはず……

「あら、私が生きているのがそんなに不思議?」

「かっ、母さん……」

私の遥か上空に本当の母さん……
プレシア・テスタロッサが存在していた。

to be continued




後書き

猫神TOMです。

6話、時空管理局編及びサイフィスの秘密をお送りいたしました。
そして、御神静馬叔父様。
恭也の叔父にして、美由希の父親です。
しかし、本編で活躍することは無いでしょうが……
なにせ、ジョーカーキャラですから。
活躍させると、恭也君やなのは、フェイト、はやてを軽く食っちまいますし。
まぁ、クロノ君の現場復帰と恭也君の師匠役で必要になったので出しました。

後、サイフィスと融合してない恭也君は近距離以外では今の時点でなのはに負けます。
もっとも、何でもありルールだとなのはに勝ってしまうのですがね。

ここらへんの修行話は別途書く時間があればサイドストーリとして書きたいと思います。

では




シグナムとヴィータが敵として立ちはだかるなんて。
美姫 「しかも、フェイトの前にはプレシアが」
一体、何がどうなっているのか。
とっても気になる〜。
美姫 「ああ〜、次回が待ち遠しい〜」
次回も楽しみに待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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