恭也's Monologue

俺が魔導師として覚醒してから10日が過ぎた時、再びヴォルクルス量産型が現れた。
俺となのはは反応が確認された海鳴よりも南、日本の首都・東京を目指して飛んでいる。
この時は、量産型1機なら俺となのはで問題なく対応できると思っていた。
だが、俺となのはが現場についた時、事態が混沌としているとは思ってもいなかった。

魔法少女リリカルなのは
−White Angel & Black Swordmaster−

Act:07「舞い降りた白き天使と黒き剣士、なの」



なのは' View

私と恭也君はヴォルクルス量産の反応があった東京に目指して飛んでいました。
でも、戦場に向かってるはずなのに今この場の雰囲気は妙に落ち着いています。
とても心地よい感じ……
私は、空を飛んでいるときが一番好きです。
恭也君はどんな気持ちなんだろうか?
そんな事を思いながら飛んでいたのですが……

「空を飛ぶってことがこんなに気持ち良いものだったとはな」

「でしょでしょ」

苦笑して呟く恭也君に私は微笑みで相槌を打ちました。
恭也君も同じ気持ちを抱いてくれたのが嬉しくてたまらないです。

「もっとも、これが戦闘が終了した後なら文句無いんだがな……」

「そうだね」

続いて恭也君からでた言葉に私は苦笑しながら返答します。
まっ、私も同じ気持ちですけどね。
そうはいっても、やっぱり戦場に向かう訳ですから気を引き締めなければならないわけでして……
だからといって緊張しすぎるのも問題です。
それでも、今の私たちには心地よい雰囲気がその場を支配していました。
不意に、シロちゃんとクロちゃんが反応を示しました。

「量産型の反応以外に、恭也とにゃのはと同レベルぐらいにょ魔力反応があるにゃ」

「数は6つだにゃ」

フェイトちゃんたちなんでしょうか?
フェイトちゃん、はやてちゃん、そしてリィンを除くヴォルケンリッターがそろっていれば数は合う。
だけど、シロちゃんとクロちゃんの言葉に私は絶句しました。

「その内4つはかにゃりまえのマスターとやりあったにょと似てる反応だにゃ」

「たしか、ルオゾールが闇の書に選ばれた時に現れた守護騎士なんだにゃ」

「えっ!?
 シロちゃん、クロちゃん……
 闇の書と戦ったことあるの?」

闇の書……
正式名称「夜天の魔道書」。
何者かにプログラムを改変され、暴走状態に陥った古代遺産。
確かに魔力が高いものを選ぶ性質を持っている為、選ばれても可笑しくは無いんだけど……

「まぁ、かれこれ2〜300年ぐらい前の話にゃ」

「ルオゾールが闇の書を使役してたせいでにゃ、戦う羽目ににゃったにゃ」

そんな昔に戦っていたんだ。
確かに闇の書自体は数百年前に作成された物なので不思議ではないのですが。

「だけど妙だにゃ」

「えっ?」

「そうだにゃ、反応だけ見ると守護騎士同士で争っているにゃ」

「!!」

守護騎士同士で争っている?
一体現場で何が起こっているのでしょうか……

《マスター、守護騎士たちは擬似人格プログラムです。
 何者かにプログラムを改変された場合……》

「操られている可能性がある……
 ってことだね、レイジングハート」

《イエス、マスター》

守護騎士たちは擬似人格プログラム。
あくまで人に似せているけど、プログラムなので何者かに書き換えられたら本来の主・はやてちゃん以外の指示を受けざるを得ない状況になってしまう。
だけど、擬似人格プログラムとは言え、守護騎士たちにはそれぞれ感情があります。
その感情を踏みにじるような行為を私は許すことが出来ません。

「つまり、何者かに改変されていると考えていいんだな?」

「うん。
 本来の主であるはやてちゃんがヴォルクルスを護るような事は絶対に無いから」

恭也君の言葉に私は肯定します。
はやてちゃんならそんなことは絶対にしない。
それどころか、守護騎士たちの運命を断ち切った主だから絶対にするわけが無い。

「奴ならやりかねにゃいにゃ」

「そうだにゃ、人の感情を踏みにじるにょが好きな奴だしにゃ」

「奴?」

シロちゃんとクロちゃんは心当たりがあるみたいです。
恭也君はシロちゃんとクロちゃんの言葉に反応します。
私も気になるので聞いていました。

「さっきも出したにゃまえにゃんだが、ルオゾールにゃらやりかねにゃいにゃ」

「裏でこそこそして、人の感情を逆撫でするのが好きにゃ奴だにゃ。
 しかも、やり方は陰険極まりないからにゃ」

「オリジナル・ヴォルクルスの一機か?
 機械の割には量産型と違って人の思考をしているようだが?」

シロちゃんとクロちゃんの会話に疑問に思ったのか恭也君は質問します。
実際、私も疑問に思っていました。
オリジナル・ヴォルクルスは五機存在していたそうです。
だけど、現在までに三機が完全消滅。
残り二機の内一機はシロちゃんとクロちゃんが話していた恭也君の前のマスター……
マサキ・アンドーさんが完全には滅ぼせなかったそうですがほとんどの機能を潰したので復活するのにはまだ時間がかかるそうです。
だから、現在残っているの一機。
その一機をシロちゃんとクロちゃんはルオゾールと呼んで区別しています。
シロちゃんとクロちゃんは恭也君の疑問に答えました。

「オリジナル・ヴォルクルスってにょはにゃ、もともと邪神ヴォルクルスと契約した神官が自ら機体に取り込まれた物を指すんだにゃ」

「にゃので、オリジナル・ヴォルクルスは取り込んだ神官の性格と思考になっているにゃ」

「!!」

つまり、オリジナル・ヴォルクルスを操っているのは人。
確かに、人なら機械にあるまじき思考能力になっていても不思議じゃない……
だけど、そんなに長く生きられるのかって疑問が湧きます。

「取り込まれた人間は?」

「機械と融合しているにょと邪神とにょ契約でほぼ永久に活動できるにゃ。
 そして中途半端に核を傷つけた所で再生能力があるから意味にゃいにゃ」

「完全に滅ぼすには、融合している核を完全に消滅させなければにゃらにゃいにゃ」

機械と融合した人物は完全に滅ぼさない限り何度でも復活するそうです。
永遠の命に近い状態。
だけど、その同じ機体の内三機は既に破壊されているので破壊することは可能。

「マサキと時もにゃ、本来なら破壊することが可能だったんだにゃ」

「ところが予想外にょ事態が起きてにゃ、破壊する直前に次元震に取り込まれたにゃ」

「その時の破壊状況は?」

「95%以上はいっていたにゃ。
 最後にょ止めが刺せにゃかっただけだしにゃ」

「そして、オリジナル・ヴォルクルスにょ核にょ被害が大きければ大きいほど復活するにょに時間はかかるにゃ」

「だから今回復活しているのは、お前たちが言っているルオゾールって奴なんだな」

「そうなんだにゃ」

つまり核にそれなりのダメージを与えていれば、復活するのには時間がかかる。
最悪、一時的とは言え活動は止まるわけだからある程度の期間は平穏に戻るわけです。
だけど、そんなたらい回しな行為はしたくありません。
でも今は、操られている守護騎士を助けるのが先決。
恭也君はシロちゃんとクロちゃんに方法を聞いてます。

「それで、操られているのを助ける方法はあるのか?」

「プログラムを書き換えれば問題にゃいんだが、オリジナルのデータが存在しなければ無理にゃんだにゃ」

「修正場所が分からないと手はだせにゃいにゃ」

「オリジナルのデータははやてちゃんに頼めば問題ないけど……
 書き換えるにはどうすればいいの?」

「ダメージを与える時と同時に差分データを転送する方法が一つだにゃ。
 こっちはタイミングが重要になってくるにゃ」

「もう一つは気絶させてからデータ転送を行なうかだにゃ
 こっちは早さが勝負になるにゃ」

「ふむ、方法はあるわけだ」

助ける方法は二つある。
だけど、どちらも厳しいとしか言いようのないレベル。
しかし、一番辛いのは守護騎士とはやてちゃん。
だから、私は必ず助けるとこの胸に誓いました。
不意に、私の意図を読み取ったのか恭也君が私を抱えます。

「きょ、恭也君?」

「時間が惜しい。
 しっかりつかまっていろ。
 最大速度で飛ばす!!」

「あっ、うん」

恭也君はそういって、自らの飛行魔法を最大速度で使用しました。
恭也君の最大速度は私に比べて遥かに早い。
だから、私は恭也君に身体を委ねました。
一刻も早く目的地に着くために……



クロノ's View

フェイトたちが現場に向かってから約30分経過。
事態は悪化するばかりだった。
ヴォルクルスと同時にシグナムとヴィータが出現。
こともあろうか、フェイトたちに向けて牙を向いた。
はやても違和感を感じていた事もあり、操られている状況だと判断したのはいいが、打つ手が無かった。

「御神提督、クロノ提督!!
 ヴォルクルス出現ポイントより0時方向の離れた位置に魔力反応あり!!」

「なんだと!?」

「それで数とレベルは?」

僕は新たな魔力反応に驚愕した。
御神提督は落ち着いてオペレータに情報を聞いている。
ここまで冷静に判断できる御神提督は凄いと思う。
僕も見習わなければならないと感じていた。

「数は2、レベルは……
 二つともSクラス級です!!」

「!!」

Sクラスが二つ?
一つならなのはの可能性は高いのだが、それが二つもだと?
その報告に対しても御神提督は冷静に判断する。

「それで、その魔力反応は争っている形跡はあるのか?」

「いえ、それどころか一緒に行動しているようです。
 まっすぐ、出現ポイントに向かっています!!」

味方か敵か?
味方ならありがたいが、敵ならば状況はさらに悪化する。
だが、僕の心配は杞憂だったようだ。

「確認した魔力反応の一つより通信あり!
 音声のみです!」

「繋いでくれ!」

「了解!!」

音声だけの通信ではあったが、声を聞くだけで安心した。
そう、僕たちの知っている人物。
高町なのは本人だったから。

『こちら、時空管理局・航空武装隊航空戦技教導隊所属、高町なのは二等空尉。
 応答お願いします!』

「なのはか!?
 無事だったのか!」

『クっ、クロノ君?』

なのはは僕の声を聞いて驚愕している。
まぁ、アースラじゃないので驚くのも無理は無いのだが……

「フェイトもはやても心配してたぞ!
 まったく無茶をしてくれて……」

『えへへへ……
 ごめんなさい』

そういって謝ってくるなのは。
だが、なのはの行動が僕たちに安心感を与えた。

『ところで、クロノ君。
 アースラはどうしたの?』

「ああ、現在管理局でオーバーホール中だ。
 もっとも、前々から新造艦に移る計画はあったんだが、前倒しになったんだ」

『そうだったんだ』

なのはは納得するように答える。
不意に、なのはと一緒に行動している人物の声が聞こえた。

『なのは、感動の再会は後回しにしてくれ。
 今は時間が惜しい』

「!!」

『うん、そうだね』

その声は男の声だった。
そして、その声に御神提督が反応した。
今まで冷静に判断していた御神提督らしかぬ行動だった。

「御神提督!?」

「いや、なんでもない」

僕の言葉に、御神提督は冷静さを取り戻す。
そして、なのはが現在の状況を聞いてきた。

『クロノ君、現場の状況は?』

「現在、ヴォルクルスが出現してフェイトとはやて、シャマル、ザフィーラが交戦。
 シグナムとヴィータが敵に操られていると思われ、フェイトたちと交戦している」

『了解。
 操られているのはシグナムさんとヴィータちゃんね?』

「そうだ」

僕は、なのはが驚くと思ったがなのはは意外に冷静だった。
疑問に思ったんだが……

『先程手に入れた情報と、あまり状況は変わってないな』

『うん。
 でも、操られている人物が分かっただけでも進展ありだよ』

『そうだな』

どうやら既にあるていどの情報は手に入っていたようだ。
それにしても、なのはと行動している人物は敵対している素振りは見せていない。
声だけ聞いていても、なのははその人物をかなり信頼しているのが分かる。
なんでも抱え込むなのはにしては非常に珍しい光景だった。

「ところで、なのは。
 一緒に行動している人物は味方と判断してよいのか」

『うん、民間協力者。
 詳しい話は後でするけど、私がこちらに転移してから一緒に行動しているの』

民間協力者か……
なのはが民間協力者として活動してた時を思い出す。
なのはは9歳の時でAAAクラスの魔力素質保持者だった。
そして、今回の協力者はSクラスの魔力素質保持者。
ミッドより、外の世界の方が高ランク魔力素質保持者は多いのだろうかと僕は思った。

「それで、名前は?」

『不破、不破恭也君だよ』

「!!」

「!!」

僕は完全に驚愕した。
御神提督も驚愕している。
不破恭也……
御神提督の甥に当たる人物……
本当に御神提督の関係者なら、アレだけの魔力資質を持っていても不思議ではない。

『それじゃ、一旦通信を切るね。
 もう少しで目的地に着くから』

そういって、なのはからの通信は切れた。
自分を取り戻した僕は御神提督に確認する。

「御神提督……」

「まさかな、こんな形で再会する可能性が出てきたとは……
 本人を見ないことには分からないが」

「そうですね……」

御神提督は感慨に耽っていた。
だが、予想外の出来事によりそれは中断される。

「ヴォルクルスの周辺に魔力反応有り!
 映像回します」

「!!
 なっ、なんだと!?」

その映像に映し出されたのは、P・T事件の首謀者……
プレシア・テスタロッサ本人だった。
だが、あの時確かに死んだはずだ……

「クロノ提督!
 至急、現場に急行してくれ!!」

「了解です、御神提督!!」

まだ、頭の中が混乱するが御神提督の命令により僕は現場に向かう。
プレシア・テスタロッサが出てきたとなるとフェイトの事が心配だ。
再び自分の殻に閉じこもるようにならなければ良いのだが……
僕は、いろいろな思いを胸に秘めクラウディアから出撃した。



フェイト' View

私は夢を見ているのだろうか?
その姿、その声……
明らかに私の本当の母、プレシア・テスタロッサ本人だった。

「かっ、母さん……」

「人形ごときに、母親呼ばわりされるとはね……
 いい加減、壊れなさい!!」

「!!」

母さんは私に対して攻撃してきた。
私は紙一重でその攻撃をかわす。
だけど、驚きと戸惑いが支配した私には今までの身体の切れはなかった。

「ほぉ、一丁前に私にはむかう気かしら?」

「母さん……
 何が、望みなんですか……?」

私は、戸惑いながらも母さんに目的を聞いた。
母さんは、私をあざ笑うかのように話し出した。

「私の望み?
 全ての破壊よ!」

「!!」

母さんの声は憎悪に満ちていた。

「私を利用するだけ利用したもの……
 アリシアを失わせたもの……
 この世界……
 いえ、全世界全てを壊してあげるわ」

母さんは、そう宣言して再び私に攻撃してきた。
無数の雷が私を襲う。
かわせない!?
私はダメージを負うことを覚悟したのですが、それはクロノ……
兄によって庇われました。

「クっ、クロノ!?」

「大丈夫か、フェイト?」

「う、うん」

私を護るように前に出るクロノ。
その瞳は母さんを睨みつけています。
母さんは、そんなクロノを嘲笑していました。

「ほぉ、そんな出来損ないの人形を庇うなんて、相当な物好きね」

「黙れ!
 人の……
 生き物の命を弄ぶ貴様は許しやしない!!」

「ふん。
 私が作った物をどう扱おうが勝ってでしょ?」

クロノの怒りをあざ笑うかのように、母さんはそういった。
そして再び、母さんが具現化した雷が私たちを襲う。
幾分冷静さを取り戻した私は、クロノと共になんとか回避していた。

「そういえばフェイト……
 自分と似た境遇な人形を助けているそうじゃない?」

「それが……
 なんだって言うんです?」

「所詮、人形は人形よ。
 まぁ、貴方にはお似合いでしょうね……
 人形の貴方には、物まねがお似合いよ」

「いっ、いくら母さんでも……
 もう、許さない!!」

「待て、フェイト!」

私は完全に理性を失った。
クロノの制止も今の私には止められなかった。
今まで母さんにどんな辛い仕打ちを受けても我慢してきた。
だけど……
私が助けた子供たちを馬鹿にされるのが我慢できなかった。

「ふんっ。
 どこまで言っても出来損ないは、所詮出来損ないね……
 いいわ、完全に破壊してあげる」

私は母さん……
いえ、もはや母さんじゃない!
プレシア・テスタロッサに向けて斬りかかっていた。
だけど、プレシアは眉一つ動かさずに私に拘束魔法を掛けた。

「っつ!?
 バインド!?」

「相変わらず、読みやすい攻撃よね……
 所詮、人形だからかしら?」

そういって、プレシアは拘束魔法に魔力を送ってきた。
具現化している鎖から雷が迸り、私の身体を襲った。

「っつ、あぁぁぁぁぁぁ!!」

「フェイト!?」

「ふふ、大層大きな悲鳴を上げるといいわ。
 貴方をいたぶる前に、うるさい餓鬼を先に始末するから」

「きっ、貴様!?」

私は悲鳴を上げながらも抵抗している。
だけど、拘束魔法はなかなか解けない。
そんな私を嘲笑しながらプレシアはクロノを標的に定めた。
クロノは怒りを露にしてプレシアと交戦する。

「たかが人形ごときムキになるなんて……」

「黙れ!!
 貴様には人形だろうが、僕にとっては大事な妹だ!!」

「ふん、いいわ。
 貴方を殺して、人形に絶望でも与えてあげるから」

クロノの言葉は嬉しかった。
私を人として扱ってくれている……
だけど、私はずっと不安だった。
人とは生まれが違うし、罪を重ねてきた……
それが自分の意思じゃなくても、その過去は変わらない。
今でも、心の奥ではその思いが蝕んでいた。

「そうそう、自分の思い通りに進むとは思うな」

「それはどうかしらね……
 下僕よやってしまいなさい」

プレシアの言葉に合わせるようにシグナムがクロノを襲う。
私は、プレシアの拘束魔法を解除してクロノの援護に向かった。

「ハーケン・セイバー」

私の一刀がシグナムを襲う。
理性を失っているシグナムはその一撃をまともに受け、後方に吹き飛ばされた。

「クロノ、大丈夫」

「ああ、なんとかな……
 それより、フェイトは?」

「私は、大丈夫……
 それに、負けるわけにはいかないから」

「そうか」

そう、私は負けるわけには行かない。
プレシアとは自分自身の手で決着つけなければ意味が無い。
呪縛を断ち切る為にも……

「気に入らないわね、その目つき……
 人形風情が!」

「気に入らなくて結構です!
 プレシア・テスタロッサ……
 貴方を倒します!」

「ほぅ、生みの親に反旗を翻すとは……
 完全に壊れたのかしらねぇ」

プレシアはあざ笑うかのように強大な魔力を展開する。
今までとは明らかに違う魔力がプレシアに集中する。

「さて、この攻撃を避けられるかしらね……
 物好きな餓鬼と人形さん?」

プレシアの言葉と共に、無数の強大な雷が私とクロノに襲い掛かった。
そして、それに合わせるようにシグナムが再び襲ってくる。
はやては、ザフィーラと共にヴィータと交戦中。
シャマルは結界魔法を展開してヴォルクルスを押さえ込んでいた。
つまり、プレシアとシグナムを相手に出来るのは私とクロノだけだった。

「理性を失った物ほど動きが読みやすい」

そういってクロノはシグナムに対して拘束魔法を展開、シグナムの動きを封じ込めた。
クロノの拘束魔法は私やなのはでも直ぐには解除出来ない。
だから、しばらくはシグナムからの動きを制限できる。
そう考えてプレシアに注力しようとした矢先、クロノが念話をしてきた。

《フェイト、はやて……
 話す機会が無くて黙っていたんだが、朗報がある》

《えっ、それって》

《まっ、まさか……
 なのはちゃんが見つかったんか?》

《ああ、そうだ。
 民間協力者と共にこちらに向かっている》

なのはが民間協力者と共にこちらに向かっている。
その情報が、どれだけ勇気付けられたことでしょうか。

《でも、珍しいなぁ……
 なのはちゃんが、人を……
 それも関係ない人に協力してもらうなんて》

《う〜ん、状況がそうさせたんじゃないのかな?》

確かに、なのはがそういった行動を取るのは珍しい。
だけど、この状況では非常に助かるのも事実でした。

《魔力資質はなのはと同レベル》

《それってSランク以上は確定やんか》

《ミッドよりも外の世界の方が、高ランク魔導師って見つかりやすいのかな》

民間協力者がなのはと同様の魔法資質持ちなら、明らかに戦力として頼りになる。
明らかに場違いな考えをしてしまった私でした。

《だけど、民間協力者の名前がな……》

《何か問題でもあるんか?》

クロノにしては珍しく歯切れが悪かった。
だが、クロノの話の続きを聞いて、私とはやては絶句した。

《不破恭也……
 先程御神提督が話していた人物と同一の可能性が高い》

《なんやて!?》

《!!》

不破恭也さん。
御神提督の話だと、なのはのお兄さんと姿が同一。
でもこんな形で合うことになるとは……
そんな考えを浮かべていましたが、プレシアの攻撃により話は中断。

《詳しい話は後回しだ。
 今は耐えて、彼女たちと合流することを考えよう》

《うん、わかった!》

《了解や!》

そして私はクロノと共にプレシアに立ち向かった。
だけど、この時私は自分の事に対して自信が持てなくなっていました。
本当にアリシアの複製(クローン)である私が存在してていいのか……
私の心は再び闇に覆われています。



はやて's View

クロノ君とフェイトちゃんがシグナムとプレシアとか言う人物と相対している頃、あたしはというとザフィーラと共にヴィータと戦っていました。
あたしはプレシアって言う人物はフェイトちゃんの母親だということ以外は知りません。
だから、フェイトちゃんとプレシアとの会話には興味があります。
ですが、人の過去を覗くような真似はしたくないので、フェイトちゃん自身が話すまでは聞くつもりはありません。
それよりも、シグナムとヴィータの方があたしにとって重要な課題です。
操られてるのは分かったんですが、治す方法はあるのですが現在厳しい状況ではできません。
そして、ヴィータの攻撃力が何時もより高くなっております。
もっとも、その分思考能力は低下……
というより、本能のまま行動しているといった方があっています。
それはシグナムにも該当するみたいで、クロノ君があっさりと対応していました。
シャマルは拘束魔法でヴォルクルスを拘束中。
だけど、戦闘開始から今まで魔法を展開している為、かなり疲労しています。

《シャマル、大丈夫か?》

《はやてちゃん……
 はっきり言えば厳しいです……》

《やっぱりなぁ、シャマルの顔色を見れば一発やもんなぁ。
 そこを何とか、もう少しだけ頑張ってくれへんか?
 なのはちゃんが助っ人連れて合流するから》

《なのはちゃん、見つかったんですか!?
 分かりました、持ちこたえて見せます!》

《シャマル、頼むな〜》

疲労しきっている身体に鞭打つような行為をシャマルにさせてしまった事に気が引けるあたし。
だけど、現在の状況だとそれしか方法が無いのも事実でした。
さらに、リィンが新たな魔力反応を確認。

《マイスター、はやて!
 前方に、魔力反応確認!
 数、100!》

《確認したでぇ、リィン
 クロノ君、フェイトちゃん、シャマル、ザフィーラ!
 大量に出現した魔力反応はあたしが引き受ける!》

《了解》

《はやて、わかった》

《はやてちゃん》

魔力反応はAクラスぐらいの雑魚やから、あたし一人で何とかなります。
ヴィータの対応はザフィーラに任せて、あたしは新たに発生した魔力反応の方に向かいました。
そして、その場所に近づくにつれ魔力反応の正体が現れてきます。

《マイスターはやて、前方に目標を確認》

《うん。
 それにしても、お化けとか骸骨とかにしか見えへんなぁ》

《魔法生物の類でしょうか?》

《そう判断するのが妥当やねぇ》

眼前に現れたのは奇妙な姿をした魔法生物でした。
顔は骸骨ですし、どっかの神官の成れの果てのような姿です。
でも、数が数なのでとっとと一掃することにしました。

《リィン、派手にやるでぇ!
 ここで、さっきから溜まってるストレスを発散や!》

《了解です、マイスターはやて》

あたしは詠唱態勢に入りました。
ゆっくりとあたしの周りを囲む魔法生物の群れ。
だけど、あたしの魔法にとっては好都合な位置に展開してくれます。

《今です、マイスターはやて!》

《了解や、リィン》

リィンの言葉に一息ついて、あたしは魔法を具現化させました。

「数多の罪状を浄化する地獄の業火。
 我の目前に徘徊する仇名す物の浄化を!
 インフェルノ!!」

あたしの言葉によって具現化した炎は、固まっていた魔法生物をことごとく浄化していきました。
インフェルノ……
かつて、あたしが特別捜査官として捜査を行なっていたときに修得した魔法。
ラグナロクやミストルティンと違って特別な効果はないんやけど、その分威力の割には魔力の消費が抑えられるので使い勝手はかなりいい魔法です。
インフェルノによって浄化された魔法生物は約50ぐらい……
約4分の1ほど消滅させたわけです。
残りは約150。

《リィン、残りもガンガン消滅させるよ》

《了解です、マイスターはやて》

あたしは残った魔法生物をかったぱしから潰しにかかります。
なすすべも無く消滅していく魔法生物。
そして、残りが50ぐらいまでなった時、異変が生じました。

《マイスターはやて!
 新たに魔力反応を200確認、先程の魔法生物とみて間違いありません!》

《ここにきて新たに魔力反応か……
 誰かが魔法生物を召喚していると見たほうだええみたいやね?》

《私も同様の判断です、マイスターはやて》

新たに発生した魔力反応は先程戦っていた魔法生物と同質な物。
それを、タイミングよく発生させるという事は、誰かが召喚していると考えた方が自然。
召喚魔法を使用するだけの魔力を持っているものは限られるんだけど……

《近くに召喚者の反応は?》

《残念ながら反応はありません。
 フェイトさんたちが相対してる人物かと思ったのですが……》

《召喚するような詠唱はしてへんか……
 シグナムやヴィータは無理やし、かといってヴォルクルスはシャマルが拘束中やしな……》

あたしがリィンと状況を確認しながら、魔法生物を各個撃破しています。
クロノ君とフェイトちゃんは、プレシアとか言う人物とシグナムと相対中。
ザフィーラはヴィータと交戦中。
ヴィータが本能任せの一方的な攻撃の為、ザフィーラのほうが展開は有利なんやけど、手加減しているためいまだ決着はついていないです。
シャマルは未だにヴォルクルスの拘束に集中。
早いところ魔法生物との決着をつけて援護に行きたいのですが……

《マイスターはやて!
 あらたに魔力反応を確認!!》

《リィン、数は幾つや?》

さらに魔力反応が発生。
だけど、リィンの報告であたしは完全に驚愕しました。

《正確な数は不明ですが先程よりも多いです!!
 それも、マイスターはやての周辺だけでなく、フェイトさんとクロノさんの周囲、ザフィーラとシャマルの周囲でも発生を確認!》

《!!
 あたしとリィンの周囲だけでなく、みんなの範囲にも発生させた……》

相手にとって良いタイミング……
こちらにとっては悪いタイミング……

《明らかにこちらの状況を把握されとる。
 リィン、索敵を!》

《了解です、マイスターはやて!》

ここまで増援のタイミングが良いって事は、近くに召喚者がいるはず。
それ以外にあたしは考えが思いつきませんでした。
しかし、リィンの報告はあたしの考えを否定します。

《マイスターはやて……
 マイスターはやてと同レベルの魔力反応を2つ確認。
 その魔力反応は共に行動しています》

《片方はなのはちゃんで確定やね?》

《はい、なのはさんで間違いないです。
 そして、もう片方が……》

《クロノ君が言っていた、不破恭也さんで間違いないやね》

リィンが発見した魔力反応は2つ。
その魔力反応はの片方はなのはちゃんで確定。
となると、もう片方は自動的にクロノ君が言っていた不破恭也さんで間違いない。
それに、これだけの魔法生物を召喚しているのでなのはちゃんレベルの魔力反応では無理だとあたしは判断しました。

《遠方召喚なんて聞いたことないやね……
 そんなこと出来るんかいな?》

《私の索敵範囲外にいるのかも知れませんが……》

《かといって、ここまでピンポイントで召喚できるもんかいな?》

考えていても魔法生物からの攻撃はやみません。
実際にあたしは何発かかわしきれなくて被弾しています。
もっとも、かすり傷程度なのでまだまだ大丈夫ですが……

《マイスターはやて!
 魔法生物からの攻撃を確認!》

《リィン、回避行動に移るから攻撃の詳細を確認頼むわ》

《了解です!》

新たに発生した魔法生物からの攻撃をあたしは何とか回避しました。
しかし、先程よりも多い攻撃の為、何発かは回避しきれず被弾しています。
しかも、あたしの動きを読んでいたのか、あたしが離脱した場所は既に包囲網が出来つつありました。

《マイスターはやて!!》

《完全にあたしの動きが読まれてる》

包囲網を突破するのは簡単ですが、元凶を倒さないことには意味が無いです。
また、全周囲型攻撃魔法を使うのも手ではあるのですが、範囲内にいる味方を巻き込むのが確実なので使用不可です。
明らかに進退窮まった時、聞き覚えのある声が私の頭に響きました。

《はやてちゃん、遅くなってゴメン!
 今から砲撃するから後方によけて!》

《なのはちゃん!?
 了解や》

なのはちゃんからの指示で、あたしは後方へ離脱します。
それと同時に、なのはちゃんの魔法が発動しました。

《ディバインバスター!》

ディバインバスター……
なのはちゃんが最も使用する砲撃魔法。
一筋の閃光が魔法生物をなぎ払います。
そして、あたしの眼前には白い天使……
なのはちゃんが現れました。



クロノ's View

はやてが新たに出現した魔法生物の対応に向かった頃、僕はフェイトと共にプレシアと敵対していた。
シグナムはというと、僕が使用した拘束魔法により現在拘束中。
しばらくは動けないので、その間にプレシアをどうにかしようと対策を練っていた。
フェイトは顔には出してないが明らかに動揺している。
ここ最近は明るくなって心配していなかったのだが、プレシアに古傷を抉られた事もあり自虐的な性格に戻らないか心配だ。
口では強気な言葉が出てきているが、明らかに空元気なのがわかった。

「ふん、餓鬼の癖になかなかやるわね」

「……生憎、これでも相当な場数を踏んでいるんでね」

プレシアの挑発に僕は皮肉で答える。
熱くなった時点で負けるのは確実。
いかに冷静に判断できるか……
それが、目の前にいる強敵に勝つ唯一の方法だった。

「クロノ、大丈夫?」

「フェイト、君こそ大丈夫か?
 先程の拘束魔法のダメージは残っているのだろう?」

「うん、私は大丈夫だよ。
 それに、あの人にだけは負けるわけにはいかないから……」

僕もフェイトも先程の戦闘でそれなりのダメージを受けている。
フェイトに限ってはプレシアの拘束魔法をもろに食らったので、かなりのダメージを受けている。
だけど、フェイトは強がっていた。
見ているこちらが痛々しいほどに、それほどまでの悲壮な決意をフェイトはしていた。

「フェイト……」

「何、クロノ?」

プレシアを睨みつけながらも返事をしてくれるフェイト。
そんな彼女に、僕は兄として出来ることを言った。

「過去に縛られるな。
 今、ここにいるのはフェイト・テスタロッサ・ハラオウンという一人の存在だ。
 アリシアの複製(クローン)ではなくてな」

「うん、ありがとうクロノ」

フェイトの返事はどこか弱弱しいかった。
明らかに闇の書事件の時に見せた反応と同じ。
フェイトは完全に自分を見失っていた。
だが、この戦場では彼女を癒す時間は存在していなかった。

「物好きな餓鬼と壊れた人形そろって消してあげる」

プレシアは宣言と同時に詠唱を展開。
プレシアの身体にまとわりつく魔力は今までの量よりも遥かに多かった。

「させるか!
 スナイプショット!」

「プラズマランサー、ファイア!」

僕はスナイプショットでプレシアの詠唱を妨害。
そしてフェイトはプラズマランサーでプレシアの詠唱を妨害した。
だけど、僕とフェイトが精製した魔弾はプレシアにダメージを与えるどころか、魔力の糧として吸収されてしまった。

「!!」

「そんなっ!」

僕とフェイトが驚愕しているのを尻目にプレシアはいまだ詠唱中。
いや、既に発動状態に入っていた。

「相変わらず無駄なことをするわねぇ。
 だけど、これで終わりよ!!」

プレシアの言葉と共に、集められた魔力が雷となって僕とフェイトを襲う。
僕とフェイトはシールド系の魔法とフィールド系の魔法を同時展開してやり過ごした。
だが、それでもプレシアの魔法の威力は甚大で完全に相殺は出来ず何発かは僕やフェイトの身体を貫通した。

「くっ」

「きゃぁぁあ!」

衝撃で後方に飛ばされる僕とフェイト。
何とか体勢を立て直したのだが、プレシアは既に次の詠唱に入っていた。
先に体勢を立て直したフェイトがプレシアに突撃する。
プレシアはそんなフェイトをあざ笑うように罵倒した。

「あら、相変わらず馬鹿の一つ覚えねぇ……
 先程のお仕置き、忘れたのかしら?」

プレシアの罵倒にフェイトは無視して斬りかかった。

「はぁぁぁぁぁあ!!」

「ふん、所詮は人形。
 目障りよ、壊れなさい!!」

プレシアは詠唱しつつもフェイトに対して拘束魔法を展開した。
フェイトを取り囲むように具現化する魔法の鎖。
だが、その鎖がフェイトにまとわりつくことはなかった。

「!!」

「プレシア・テスタロッサ、覚悟!!」

フェイトは、プレシアの拘束魔法が自分にまとわりつくまえに短距離の瞬間移動魔法を展開しプレシアの目の前に迫った。
そして、フェイトはバルディッシュをプレシアに振り下ろす。
とっさにプレシアはシールドを展開し、フェイトの攻撃を妨害した。

「ふん、人形の癖にこしゃくな真似をしてくれる」

「……だから何だって言うんです?
 私は、私は……」

プレシアは左手で展開したシールドをそのままに、空いている右手に魔力を凝縮させていた。
だが、フェイトはその事に気づいていない。

「フェイト、離れろ!!」

「えっ?」

「ふん、やっぱり貴方は人形よ!
 私がシールドを張ってるだけしか出来ないと思ってたの?」

フェイトは僕の言葉に半信半疑な表情で驚いている。
プレシアはそう宣言して、隙を突いてフェイトの腹を殴るように魔力を開放させた。

「きゃぁぁぁぁあ!!」

プレシアの強烈な一撃の衝撃で吹き飛ぶフェイト。
僕はとっさに反応してフェイトを捕まえるように移動して先回りした。
そして、飛ばされたフェイトを抱きかかえるように止める。

「大丈夫か?」

「なっ、なんとか……
 ごめんクロノ……」

フェイトの息はかなり荒くなっている。
バリアジャケットはかなりボロボロになり、避け口からは血が滲み出ていた。
僕はさりげなく回復魔法をフェイトにかける。
だが、この隙を突いたプレシアが再び雷を僕らに向けて放った。

「フェイト、しっかりつかまっていろ!」

「あっ、えっ?」

僕はフェイトを抱えながら、プレシアが放った雷を回避する。
それと同時にフェイトに回復魔法をかけ続けた。
その為に、防御魔法で遮断できない分被弾した部分のダメージは先程よりも大きかった。

「っつ」

「ク、クロノ!?」

「大丈夫だ」

僕は、フェイトに悟られないように強がって見せた。
本当の所はかなり辛い。
おそらく次の攻撃をまともに食らったら意識は保てそうにはない。
しかも、僕たちの周りにはいつの間にか幽霊もどきが出現し取り囲んでいた。

「!!
 何時の間に!?」

「……魔法生物の類か?」

僕たちは完全に隙をつかれた。
そして、プレシアはこの隙を逃すことはなかった。

「ふふふ、二人そろって無様よねぇ……
 下僕たちよやってしまいなさい!!」

プレシアの命令で一斉に攻撃を開始する魔法生物。
体力に余裕がある状態なら防ぎきる事は可能なのだが、今は完全に疲弊しきっていて精神力で保っている状態。
だから僕はフェイトを真下に突き飛ばし、彼女が被弾するのを避けた。

「クッ、クロノ!?」

フェイトが僕を非難する。
だが、僕にはフェイトを相手にする余裕などなかった。
かりそめとは言え、防御魔法を展開するが魔法生物からの攻撃は防ぎきる事は出来なかった。

「くっ……」

苦痛に顔をゆがめる僕。
身体は完全に言うことが聞かない。
だが、まだ意識は残っている。
そんな僕に対して、いつの間にか僕の拘束魔法を解いたシグナムが目の前に迫っていた。

「クロノォォォォオ!!」

フェイトの絶叫がこだまする。
しかし、死を覚悟した僕はどことなく満足感に浸っていた。
フェイトを、義理とはいえ妹を護ることが出来たことに……
だが、シグナムの一撃は僕を捕らえることはなかった。
僕の眼前には、黒い衣装を着た一人の男が僕を護るようにシグナムからの攻撃を防いでいた。
そして、僕は確認する暇もなく意識を失った。



なのは's View

間一髪ではやてちゃんのピンチを救った私ですが、フェイトちゃんとクロノ君が相対していた相手を見て絶句しました。
そう、あの時私の目の前で次元の狭間に飛び降りた人物が存在していました。

「そっ、そんな……」

私の異変に気づいたはやてちゃんが聞いてきます。

「なのはちゃん、あの女の人知っているんか?」

「うん、ちょっとね……
 でも、まさか生きているとは思わなかった……」

はやてちゃんは私とフェイトちゃんが出会った事件「P・T事件」は知りません。
なので、フェイトちゃんの生まれに関してもはやてちゃんが興味を抱いていなかった事もあり話すことはありませんでした。
ですが、私の呟きにはやてちゃんは反応します。

「生きているとは思わなかったって、どういうことや?」

「そっか、はやてちゃんは「P・T事件」は知らないんだよね」

「うん、あんま人の過去を調べるのは好きではないからなぁ……
 捜査上必要な事なら調べる事に躊躇はせえへんけど」

はやてちゃんは過去を振り返るような事はしないです。
どんな辛いことがあっても前に進む強さがはやてちゃんにはあります。
だからこそ、はやてちゃんは人の過去を自分から聞くことはありませんでした。

「でもな、あの女の人……
 フェイトちゃんに対して「人形」って連呼してたで?」

「!!」

はやてちゃんの言葉に私は絶句しました。
フェイトちゃんにとって一番傷つく台詞。
今では明るくなったフェイトちゃんですが、未だにあの事件で自分がしたことに罪悪感と嫌悪感を感じています。
それが再び表に出てこなければ良いのですが……
そして、はやてちゃんにもフェイトちゃんの事を話す必要があるかもしれません。

「フェイトちゃんの事は、後で詳しく話すから……」

「うん、わかったで」

私とはやてちゃんはそう話しながらクロノ君とフェイトちゃんの元へ向かいます。
ですが、クロノ君が魔法生物に囲まれて身動きが出来ない状態で攻撃を受けています。
そして、敵に操られたシグナムさんが止めを刺そうとクロノ君に斬り付けました。

「クッ、クロノ君!?」

はやてちゃんがその光景を見て驚愕。
また、フェイトちゃんの絶叫が戦場に響きました。
だけど、私は平然としています。
そう、彼が……
恭也君がそっちに向かってくれているから。

「えっ、クロノ君が無事や?
 ……って、あの人が?」

「そう、不破恭也君。
 ついでに言うと、並行世界の私の兄になるよ」

「えっ!?」

はやてちゃんの間抜けな表情に私は苦笑しています。
戦場に場違いな空気が流れています。

「彼、本名は高町恭也なんだ。
 ちなみに、不破って言うのは父方の姓でこういった荒事では父方の姓を名乗っているわけ」

「そうやったんか……
 どおりで瓜二つなわけなんやな」

はやてちゃんは感慨に耽っています。
まぁ、初恋の人と瓜二つな人物を見れば誰だってそうなるでしょうけど……
だからといって渡すつもりはありません……
って、何故にこんな気持ちになるんだろう?
今までこんな気持ちになったことないのに……
でも、今はそんな事をやっている暇は無いわけですので……

「まぁ、詳しい話は後にってことで……
 まずはクロノ君を離脱させないとまずいよ」

「そうやね」

クロノ君は完全に戦闘不能な状態。
フェイトちゃんはクロノ君を支えている状態です。
恭也君はその二人に攻撃が行かないように敵をひきつけてくれています。

《フェイトちゃん、クロノ君を連れて帰艦して》

《えっ?
 でっ、でも……》

フェイトちゃんは明らかに戸惑っています。
というより、目の前に起きた光景で完全に混乱していました。
はやてちゃんはそんなフェイトちゃんを諭すように話します。

《なのはちゃんも来てくれたさかい、こっちはあたしらで何とかする。
 というか、一刻も早くクロノ君を医務室に連れて行かないとまずい!》

《なのはが来てるの?
 じゃぁ、さっきクロノを護ったのは……?》

《そや、クロノ君が言っていた助っ人や》

はやてちゃんは嬉しそうに宣言します。
私はというと、プレシアに注視していました。

《遅れてごめん、フェイトちゃん。
 それと心配かけてごめんなさい》

《なのは!
 私、私……》

フェイトちゃんの返答に力が無いです。
いつもだったら、馬鹿とか言ってくるはずなんですが、今回はそういった事をしてきません。
やはり、プレシアとの戦闘で過去の傷を抉られたみたいです。
この状態で戦ってもフェイトちゃんは本来の力を発揮でません。
それに、はやてちゃんと違ってクロノ君ほどではないにしてもかなりのダメージを負っていました。

《フェイトちゃん……
 親友としては言いたくないけど……》

《なのは?》

フェイトちゃんは戸惑った表情を浮かべながら私を見つめていました。
余裕がある状況なら他に言い方があるんだけど、切羽詰った状況では良い言葉が浮かびません。
そして、傷ついた身体でしかも完全に動揺しているフェイトちゃんは今の状態だと完全に足手まといにしかなりません。

《……教導官の意見として言います。
 今のフェイトちゃんは足手まといにしかなりません》

《なのは……?
 うん、そうだね……》

《だから、ここは私たちにまかせて帰艦して治療を受けて!》

《あたしの意見もなのはちゃんに賛成や。
 それにいまクロノ君を抱えているのはフェイトちゃんだよ。
 フェイトちゃんが連れて行かんと誰が連れて行くんや?》

私の意見にはやてちゃんは肯定してくれました。
はやてちゃんもリーダとしてフェイトちゃんの事が気になっているみたいです。
フェイトちゃんは私たちの意見を聞き入れてくれました。

《なのは、はやて……》

《フェイトちゃん、私は大丈夫だよ!
 心配かけたぶんは取り返してみせるから!》

《あたしもまだ平気や!
 だから心配することはあらへんで、フェイトちゃん》

《うん……》

そしてフェイトちゃんはクロノ君を抱えてクラウディアに帰艦しました。
だけど、この時私は気づいていませんでした。
フェイトちゃんの心に今まで以上の闇が覆いつくしていた事に……

《なのは?
 話はまとまったのようだが、俺は誰の指揮に従えば良い?》

《あっ、え〜と……》

突然、恭也君から念話がきました。
確かに恭也君は民間協力者なので、誰かの指揮下に入った方がいいです。
もっとも恭也君の場合、そんじょそこらにいる指揮官に比べたら良い判断をしてくれますので自由にさせても問題はないんですけど。

《え〜と、初めまして。
 あたしは、八神はやてと言います》

《あっ、八神さん、これはどうもご丁寧に。
 俺は、高町……
 いえ、不破恭也といいます》

《はやてで良いですよ。
 ついでに普通に喋ってくれても構いませんから。
 私も恭也さんって呼ばせて頂きますから》

《……了解した》

ここぞとばかりに念話で自己紹介するはやてちゃん。
恭也君もはやてちゃんに自己紹介しています。
それにしても、二人に流れているこの空気……
私は凄く嫌な気分になっています。

《どうした、なのは?》

《えっ?
 いやっ、べっ、別に……》

《おや、なのはちゃん?
 何故どもっているのかなぁ?》

私の気持ちに気づいたのか恭也君から質問が来ました。
私は、来るとは思っていなかったのであせって答えてしまいました。
はやてちゃんはそんな私に気づいて怪しい笑いを浮かべています。

《……まあいい。
 で、俺は誰の指揮に従えばいいのだ?》

恭也君は溜息をつきながら聞いてきます。
こういう状況でありながらも的確に敵を撃墜しているあたり流石だなぁと思うわけで……
はやてちゃんは完全に興が削がれたのか苦笑しています。
恭也君に助けられた私もまた苦笑していました。

《え〜と、クロノ君が離脱しちゃったので、今現在ははやてちゃんになるのかな》

《そうやねぇ、一応指揮官候補生やしな》

現在の状況だと、はやてちゃんが一番適任になります。
本当の所は恭也君の方が適任ではないのかって思いますけど……

《了解した。
 それで、この状況に対する作戦は?》

《シャマルがあれを押さえこんでいるけど、そろそろ限界や》

《あぁ、飛行型のヴォルクスル量産型か……
 あれは、現状はなのはが対応した方がいいな》

《そうだね。
 恭也君はシグナムさんの押さえをしなきゃならないし》

《ちょっ、なのはちゃん!?
 あれを一人で押さえるんか!?》

案の定、はやてちゃんは驚愕している。
まぁ、確かにあれを情報が無い状態で一人で押さえるのは無謀ですけどね。
ですが、今の私はあれの情報を持っているし、恭也君と二人とはいえ合体した奴を倒している実績があります。
恭也君があれを押さえても問題はないのですが、シグナムさんの近接戦闘能力を考えるとこちらを押さえるのは恭也君が適任です。

《大丈夫だよ、はやてちゃん。
 恭也君と一緒だったとはいえ、地上型と飛行型二体を倒しているから》

《うそ!?》

私の発言にはやてちゃんは絶句。
まぁ、普通に考えたら驚くのが当たり前なんですけどね。
でも事実は事実です。

《まぁ、ふつ〜は驚くにょもむりにゃいにゃ》

《でも、奴の詳しい情報を手にしたにゃのはにゃら大丈夫にゃんだにゃ》

《!!
 にゃんこが喋った!?》

はやてちゃん、あっけに取られています。
魔力反応があるから普通気づくと思うのですが。
そんなはやてちゃんの反応を見て、私は苦笑しています。

《あぁ、自己紹介がまだだったな。
 白猫の方が男性思考のシロ、黒猫の方が女性思考のクロだ》

《はやて、よろしくにゃんだにゃ》

《あたしたち、恭也にょデバイスにょサポート人格にゃんだにゃ》

《うわぁ、可愛いなぁ。
 こちらこそよろしゅ〜な》

はやてちゃんの目が輝いています。
どうやら、シロちゃんとクロちゃんの事が気に入ったみたいです。
そ〜いや、はやてちゃんって猫が好きだったんだっけ?
恭也君はそんなはやてちゃんに対して苦笑しているようでしたが、また真面目モードに入りました。

《で、あっちの犬が操られたもう一人の相手をしているな。
 このまま任せるのか?》

《恭也君……
 あれ、犬じゃなく狼だよ》

《ぬぅ、そうなのか?
 気配だけでは狼犬かハスキー犬ぐらいだと感じたのだが……
 俺も修行が足りんようだ》

《けっ、気配だけって……
 恭也君?》

気配だけで状況を把握している恭也君に絶句する私。
確かに、幽霊みたいな魔法生物とシグナムさんを相手に周りを見ている暇は無いのはわかるですけどね。
かくいう私たちも話しながら魔法生物を倒していたわけですが、状況はあまり進展していません。

《それで、残っているのがあの上で陣取っている魔女か?》

《クロノ君とフェイトちゃんを相手にして疲れたのか……
 それともあたしたちを侮っているのかは分からんけど、動かないなぁ》

《いや、そろそろ動くはずだ。
 先程、シグナムといったか?
 あの剣士の攻撃からお前たちのリーダーを護るときにバインドを仕掛けてきた。
 それも鋼糸のオマケつきでな》

《飛行魔法の最大速の状態で締め付けたからにゃ》

《ホント、恭也にょ能力じゃにゃいと出来ない荒業にゃんだにゃ》

《どおりで動かないとおもったわ。
 それにしても流石ですなぁ》

《……こういう戦闘技術は文句無しだね、恭也君》

恭也君の行動にはやてちゃんは呆気に取られています。
シロちゃん、クロちゃんも同様に呆れています。
私はというと、恭也君の戦闘技術は知っているので驚きはしません。
その戦闘技術の何分の一ぐらい魔法構築能力に変換できるとよいのですが……
でも、恭也君の行動で時間を稼げたのも事実です。

《じゃ、あの人の対応ははやてちゃんで確定だね》

《了解や》

各自の担当が決まり行動を起こそうとした所で恭也君が思い出したように話してきました。

《ところで、操られている二人の主ははやてで間違いないか?》

《ええ、そうですけど……
 って、なのはちゃん、あたしの子たちの事話ちゃったんか?》

《え〜と、成り行き上話さざるを得なかった訳で……》

恭也君はシグナムさんとヴィータちゃんの主であるはやてちゃんに確認を取っています。
はやてちゃんは、シグナムさんたちの事を話した私を責めます。
まぁ、一応機密扱いのため話すべきではないのは分かってたんですが……

《はやて、にゃのはを責めにゃいでにゃ》

《あたしたち、闇の書と敵対したことがあるんだにゃ》

《え!?》

シロちゃんとクロちゃんが私のフォローをしてくれます。
もっとも、クロちゃんの言葉ではやてちゃんは絶句しました。

《もう、かれこれ2〜300年ぐらい前の話にゃ》

《当の本人たちは闇の書の性質で忘れているけどにゃ》

《恭也さんのデバイスって……》

《う〜ん、調べてみないと分からないけど古代遺産の可能性は高いと思う。
 もっとも危険度は低いし、デバイス自体に意思があるから問題ないけど》

《そうか。
 なのはちゃん、さっきはすまんなぁ》

《気にしないで、はやてちゃん》

確かに恭也君のデバイス「サイフィス」は古代遺産の可能性は高い。
対ヴォルクスルって自負しているから他の古代遺産と違って問題は無いとは思います。
でも、現状はそのことよりもシグナムさんとヴィータちゃんを助ける方が先決なわけです。

《はやて、シグナムとヴィータと言ったな。
 その者のオリジナルデータを俺のデバイスに転送してくれ》

《それは構いませんが、何をするんです?》

《タイミングを見計らって、一気にデータを書き換える!》

《!!》

どうやら恭也君は既に助ける方法を確立したようです。
はやてちゃんは完全に驚いていました。
私は恭也君と一緒にシロちゃんとクロちゃんのプランを聞いていたので、特に驚く事無く普通に聞いていましたけど。
はやてちゃんはしばらく考えた上で恭也君の提案に従いました。

《リィン、恭也さんのデバイスにデータの転送をお願い》

《了解しました、マイスターはやて》

はやてちゃんはリィン経由で恭也君のサイフィスにデータを転送しています。
ですが、予想以上のデータ量にシロちゃんとクロちゃんは苦笑していました。

《思った以上にデータが大きいにゃ。
 転送に時間がかかるにゃ》

《これだと操られている二人にょ分にょデータを比較して差分をださにゃきゃだめだにゃ》

《まぁ、こういう仕事はオイラたちに任せるにゃ》

《はやては心配せずにまっとるにゃ》

《シロちゃん、クロちゃん。
 ホンマに助けることができるんやな?》

はやてちゃんの懇願するような言葉に、シロちゃんとクロちゃんは自身を持って確約します。

《任せるにゃ》

《姿形は違っても似たようにゃ存在だからにゃ》

《だが、現状解析に時間はかかる。
 なのは、はやて。
 その間の時間稼ぎは頼むぞ》

《うん、任せて!》

《恭也君、シロちゃん、クロちゃん。
 あの子たちの事頼みます》

《ああ、任せろ!》

恭也君が自信を持ってはやてちゃんに答えます。
それと同時に、恭也君がプレシアにかけていた拘束魔法が解かれました。
拘束魔法を解いたプレシアは、今までに無い形相をし憎悪に満ちた言葉を発しました。

「貴様は……
 私の人形に余計な事を吹き込んだ娘!」

「だからなんだというんです?
 フェイトちゃんが望まない行為を押し付けた貴方が!!」

私は一瞬怒りで我を忘れかけました。
フェイトちゃんを道具のように扱い、そして捨てたあの魔女を私は今でも許すことが出来ません。
いくら、あの人が辛い人生を送ってきたとしてもその行為だけは認めるわけにはいきません。

《落ち着いてにゃのは》

《アレはにゃのはが知っている人物じゃないんだにゃ》

《え!?》

シロちゃんとクロちゃんの突然な言葉に私は驚きました。
そんな私にお構いなくシロちゃんとクロちゃんは話を続けます。

《あの人物から発せられる魔力……
 間違いにゃい、あいつにゃんだにゃ》

《あたしたちは何度も感じた魔力だから間違えることはにゃいにゃ》

シロちゃんとクロちゃんが確信を持ってプレシアを否定しています。
だけど姿形はあの時のプレシアと同じです。
同じ姿……?
いえ、生きていたらあの時と同じ姿では無いはずです。
私が疑問に思いだした時、恭也君のデバイスから音声が発せられました。

「いい加減、猿芝居はやめたらどうだ?
 ルオゾール・ゾラン・ロイエルよ」

その言葉に反応したプレシアは不適な笑みをしました。
そして、その姿には似つかない男性の老人のような声で話し出しました。

「まさか、貴方が目覚めていたとは思いませんでしたよ。
 風の精霊王サイフィスよ」

そして、この場の空気は明らかに変わりました。
この戦いまだ終わりそうにはありません。

to be continued




後書き

どうも猫神TOMです。

既に7話に突入しました。
1クールで考えると中盤戦に突入です。
そして、プレシア女史の正体……
黒幕であるルオゾールが死体を操ってただけです。(爆)
詳しい内容は次回説明するので。
クロノ君とフェイト嬢は離脱。
フェイト嬢の復活は9話か10話になると思います。

因みにはやての魔法は原作だとミストルティンかラグナロクだけで、他のキャラに比べて圧倒的に少ないです。
なので、オリジナル魔法をプラスしています。
まぁ、レアスキルで集めたと思っていただければ……
今回だしたインフェルノ……
元ネタはFFシリーズの召喚獣イフリートの技、地獄の火炎から取ってます。

8話でこの戦いに一区切りが付き、9話以降で恭也君と御神提督の関係とフェイト嬢フラグの回収。
そして黒幕との最終決戦に入ります。

では



ピンチに現れる恭也となのは。
美姫 「美味しい所を頂きね」
とはいえ、実際には結構ギリギリのタイミングだったな。
美姫 「まさに間一髪よね」
生きていたと思われたプレシアの謎も解け、次回は戦闘かな。
美姫 「ああー、次回が待ち遠しいわね」
うんうん。次回も楽しみにしています。
美姫 「待っていますね」



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