なのは's Monologe

え〜と、私がこの世界に飛ばされてから数日が過ぎようとしています。
飛ばされた初日に、量産型ヴォルクルスを二機破壊する事に成功したのですが、その後は特に大きな事件も無く比較的平穏な日々を送っています。
……まぁ、はた迷惑な事件に巻き込まれたりはしますけどね。
それに、今までこの世界の高町家に滞在してからと言うもの、非現実的な出来事や非常識な展開のオンパレードで私自身、そういった事に違和感がなくなりつつあるのを感じました。
さて、本日はどんな事が起きるのでしょうか……

魔法少女リリカルなのは
−White Angel & Black Swordmaster 〜Side Story〜−

Side:03「二人のなのはのとある一日」



なのは's View

私は夢を見ていました。
そして、その夢はやけにリアルで私自身が体験してきたような感じがします。
だけど、私の過去にそんな体験はした事無い……
何故なら、私の小さい頃はお父さんは大怪我をして入院し、お母さんはお店の切り盛りでお兄ちゃんはお母さんのお手伝い。
それに、お姉ちゃんもやけに忙しくて私に構ってくれた事はあまり無かった……
当の私はと言うと、お母さんの方のお婆ちゃんに預けられ一人寂しく留守番をしていた。
でも……

「……お父さんが亡くなっている?」

その夢の中の私は、お父さんの法事に出席していました。
そして、そこにはお母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんに……

「えっ、なんで晶ちゃんやレンちゃんがいるの?」

そう、夢の中の世界では晶ちゃんとレンちゃんの小さい頃の姿がありました。
それに、その世界の私はお兄ちゃんに懐いているようで、お兄ちゃんもまた私に構っています。
でも、そこの私は時々辛そうな表情をしています。
特に、お兄ちゃんと話が終わった時なんかに……

「……なんだろう、この感じ」

寂しいという感情とは違う感じ……
どこか自分を責めいているような、そんな感じが夢の世界の私では感じられます。
当時の私は、家族に対して諦めに似た感情を持っていたような気がする。
構って欲しくて、でもそれが出来なくて……
そんな事もあり、私は要らない子供なんだと思うこともありました。
家族もその事を気にしているのか、落ち着いてからはやけに構ってきましたけど……
私は、どこか白々しく感じていたような気がします。
でも、夢の世界の私はそんな負の感情は抱いていません。
だから、夢だと認識できたのですが……
不意に、私の視界が真っ暗になります。
そして、再び視界に入ってきた景色はなのはちゃんの部屋の天上でした。

「……さっきの夢は何だったのかな?」

そう呟きながら、私は布団から起きようとします。
だけど、私の胸の部分に違和感を感じました。
違和感を感じた部分を見てみると、久遠ちゃんが身体を丸めて引っ付いています。

「何か重いと感じたのは、久遠ちゃんだったのね」

久遠ちゃんの姿を見て、私は苦笑します。
だけど、そのままにしておいたら起きる事が出来ないので久遠ちゃんをなのはちゃんのベッドにずらします。
その事に気づかないまま、微動出せずにぐっすり眠る久遠ちゃん。
その姿を見て、久遠ちゃんの身体を優しくなでました。
隣で寝ているなのはちゃんも、久遠ちゃんの存在に気づかずぐっすり眠っていました。

「え〜と、今は……
 5時前ね……」

時間を確認した私は、ゆっくり起き上がり着替えをします。
恭也君の朝練に付き合うため、動きやすい服装にですけどね。
そして、着替え終わって布団をたたんだ私は、なのはちゃんの部屋を出ました。
道場に着いた私は、既に来ていた恭也君に気づいて挨拶します。

「おはよう、恭也君」

「ああ、おはよう、菜乃葉……
 いや、二人だけだからなのは……、か?」

「う〜ん、ここ最近だと違和感無くなってきているんだよね、実は。
 だから、この世界ではどっちでもいいかな」

この世界に飛ばされた私は、この世界に存在する私と区別する為に偽名を使っていました。
……それなんですが、ここ最近しっかり馴染んでしまっていて違和感が無くなりつつあるのを実感しています。
多分、私の世界の家族との蟠りがそうさせているのかも知れません。
そんな私に、恭也君は苦笑するだけでした。
不意に、恭也君の目つきが変わります。

「……ようやく馬鹿弟子が来たようだ」

「あは、あははは……
 美由希さんは相変わらずだね……」

美由希さんに気づいた恭也君は、溜息をついています。
相変わらず、恭也君は気配で美由希さんを把握します。
それにしても、美由希さんは相変わらず来るのが遅いです。
そして、恭也君の制裁紛いの訓練を受ける羽目になるんですから、自業自得なんですけどね……
当の美由希さんは、恭也君に平謝りです。

「ごめん、恭ちゃん!
 遅くなった……」

「何時もの事だ。
 何、心配するな。
 メニューを少し変更してやる」

「あぅ、恭ちゃん、酷い!?」

「だったら寝坊するな!!
 菜乃葉はちゃんと時間を守ってるぞ」

毎度のごとく、恭也君は実力で美由希さんを制裁するつもりです。
それに気づいた美由希さんは、呆然としていますが……
さらに、恭也君は美由希さんを説教しています。
まぁ、昔の私だったら寝起きが悪くて美由希さんとおんなじ目に遭うかなと思っていたり……
そんなこんなで、準備体操を終え道場の中で実技訓練と言うなの模擬戦が始まるわけです。

「美由希と菜乃葉で模擬戦だ。
 俺が、お前たちの戦いを見ている。
 勝敗は何時ものやつだ」

「りょ〜かい」

「うん」

恭也君の指示の下、私と美由希さんはそれぞれの位置につきます。
美由希さんは小太刀型の二刀の木刀、そして私はレイジングハートが展開する長さぐらいの棒を持っています。
実際には、美由希さんは飛針や鋼糸を使うので、魔法を使えない私の方が不利になる状況です。
と言うより、魔法を使えない状況下での戦闘訓練と言った方がいいのかも知れません。
何故なら、恭也君が言うには美由希さんもまた非現実的な事を体験しているので、魔法を使った所で問題無いとの事。
だけど、実際には魔法を使えない状況でも戦闘はあると思うので、あえて魔法を使わない事を選択しました。
私自身、管理局の魔法至上主義には違和感を感じています。
と言うか、今の管理局の運営方法だと何らかの理由で魔法が使えなくなったときに対応が取れないと薄々感じていました。
まぁ、でも……
運動神経が無い私から魔法を取ったら、それこそ動く的状態なんですけどね……
私と美由希さんが位置についた事を確認した恭也君は、最終確認をします。

「では、二人とも準備はいいな?
 始めるぞ……」

「こっちはいつでも!」

「私も、オッケーだよ!」

「では……、始め!」

準備が整った事を確認した恭也君は、模擬戦開始の合図をしました。
その合図と共に美由希さんは、飛針を投げ間合いを詰めてきます。
私は、その飛針を紙一重で避けます。
昔の私なら、それこそ大きく避けて相手に隙を与えてしまっているのですが……
今までの訓練のおかげで、これくらいの攻撃なら動かずに避けれるレベルまで達しています。
ですが、その隙を逃す美由希さんではありません。
両手に持った木刀を私に対して交互に振り下ろしてきます。
私は、持っている棒でその攻撃をいなしつつ隙を窺っています。
美由希さんの攻撃は、止まる気配はありません。
ですが、その攻撃の中に一瞬だけを見つけた私は、振りかぶった棒を一気に振り下ろします。
気づいた美由希さんは慌てて離脱しましたが、その攻撃は美由希さんの身体に僅かですけどかすりました。
私はあえて追撃をせずに、体勢を立て直し息を整えます。
美由希さんもまた、息を整えて次の攻撃へ備えました。

「ふむ、菜乃葉の方は僅かの期間の割にはだいぶ上達しているようだな……
 それに比べて、馬鹿弟子の攻撃は単調すぎる……」

恭也君は、私と美由希さんの戦闘を評価しています。

「うう、何で菜乃葉さんには優しくて、私には辛口なのよ!?」

恭也君の評価を聞いた美由希さんは、不貞腐れています。
ですが、その隙を逃す私ではありません。
私の行動に気づいた美由希さんは、慌てたように言います。

「ちょっ、ちょっと菜乃葉さん!?
 それは、反則……」

「……勝手に止まったのは馬鹿弟子、貴様の方だ。
 俺は終了の合図はした覚え無いぞ」

そんな美由希さんに、容赦ない言葉をかける恭也君。
確かに、終了していないのに油断した美由希さんが悪いのも事実。
まぁ、教導隊の訓練でも似たような経験があるので内心苦笑しています。
……後日、教導隊の訓練マニュアルを制定した人が恭也君の身内だと判明するのですがね。
恭也君の言葉に、美由希さんは顎を外していました。

「うなっ!?
 恭ちゃんの鬼、悪魔!?」

「奇襲に対する訓練にはちょうどいい。
 だから、そのまま続行だ。
 ついでに今は恭ちゃんじゃない!
 師範代と呼べ!!」

美由希さんの講義を、恭也君はあっさりと一刀両断。
私はと言うと、恭也君と美由希さんとのやり取りの間に間合いを詰めていたりします。

「……そういう事なので、美由希さん。
 覚悟はよろしいでしょうか?」

「ちょっ、ちょっと、ちょっと……」

私は振りかぶった棒を、美由希さんに振り下ろしました。
慌てながらも美由希さんは、しっかり私の攻撃を防ぎます。

「つぅ……
 見た目と違って、菜乃葉さんの一撃は重い……」

「恭也君や美由希さんと違って、手数で勝負できませんから……
 それに、あくまで護身用なんですけどね」

実際、私は砲撃魔導師な訳で格闘戦はあくまで保険であり護身用。
もしくは、近接戦闘型の魔導師を相手にした時に防御もしくは回避する手段でしかありません。
本来は、その一撃と一緒に近距離砲撃を食らわせて離脱するんですけどね……
まぁ、今は魔法は使わないのでこういった状況になっているわけです。

「その割には、殺る気満々じゃないですか!?
 さっきの不意打ちといい……」

「諦めてください。
 私も恭也君と同様、負けず嫌いな性格をしてますから」

美由希さんの言葉に、私は笑顔で返しました。
不意に、美由希さんの攻撃がきます。
私は棒を構えなおし、その攻撃をいなします。
その隙を突いて、美由希さんは離脱しました。

「情けない言葉とは裏腹に、やる事はえげつないですね美由希さん?」

「そりゃ〜、そこの鬼師範代に散々やられているものですからねぇ」

私の言葉に、美由希さんは苦笑して答えました。
どうやら、美由希さんは恭也君に散々な目に合わされながらもしっかり学んでいたようです。
不意に、美由希さんの雰囲気が変わりました。
それと同時に、美由希さんの目つきも鋭くなっています。

「……覚悟はよろしいですか、菜乃葉さん?」

(来る……!)

美由希さんの言葉に無言で肯きます。
そして、その言葉と共に美由希さんは神速を発動させました。
飛針、鋼糸……
さまざまな角度から、それらの攻撃がやってきます。
飛針は紙一重にかわし、鋼糸は巻きつかれない程度に避ける私……
そして、後ろから凄まじい殺気を感じました。
私は、恭也君みたいに気配で確実に状況が分かるわけじゃありません。
でも、管理局の仕事に従事してからと言うのも戦場でそういった殺気を感じる事はありました。
だから私は、その直感に従い振り向きながら攻撃をしました。

「そこっ!」

私の一撃は、美由希さんをしっかり捕らえていました。
美由希さんは私の攻撃を片方の刀で防いでいます。
そして、空いているもう片方の刀で私を捉えようとしました。

「そこまで!!」

恭也君の言葉に立ち止まる美由希さん。
私は、緊張の糸が途切れたように座り込んでしましました。
そんな私と美由希さんに、恭也君はタオルとスポーツドリンクを渡してくれます。

「ほれ、お疲れさん」

「うん、ありがと、恭也君」

「うわ〜、恭ちゃん、ありがと」

私は、冷えたスポーツドリンクを喉に通します。
運動した後には、とても良い感じです。
私と美由希さんが落ち着いたのを確認した恭也君は、話し出しました。

「勝敗から言えば美由希の勝ちだな……」

「えへへ……」

恭也君の言葉に、満足そうに喜ぶ美由希さん。
美由希さんの表情を見ていると、少し悔しいです。
ですが、恭也君は浮かれている美由希さんに爆弾を落としました。

「だが、偶然とは言えあかの他人に神速を捉えられた時点でお前の負けだ」

恭也君のの言葉に美由希さんは固まってしまいました。
私は、そんな美由希さんを見て少し同情します。
恭也君は固まっている美由希さんを無視し、私に話しかけてきます。

「ところで、菜乃葉?」

「何、恭也君?」

「美由希の神速をよく捉えたな。
 今までは捉える事が出来なかったのにな」

恭也君は、美由希さんの神速を捉えた事を聞いてきます。
今までの私は、恭也君の言うとおり美由希さんの神速は捉える事が出来なかったんですけどね。

「う〜ん、恭也君が散々神速を使ってくれていたから、それなりの殺気は感じてたんだよね。
 ただ、神速の速度に身体がなかなか反応しなかっただけなんだけど……」

「……ふむ、殺気を捉える事は出来るのか」

「うん、恭也君みたいに気配だけで分かるわけじゃないんだけど……」

「ああ、そういうことだな」

私の濁した言葉に、恭也君は納得します。
流石に、戦場で鍛えられたって美由希さんに話すわけには行きませんから。
それに、表向きは護身術を学ぶって事になっていますからね。

(それでも、恭也君の神速は捉える事が出来ないんだけど……
 それに加えて、飛行魔法で加速されるとね……)

内心、そんな事を思っていたりします。
恭也君は、固まってる美由希さんに呆れながらも話しかけました。

「おい、美由希。
 何時まで固まってるつもりだ?」

恭也君の言葉に、美由希さんは反応を示しません。
その姿をみた恭也君は、溜息をついて私のほうに向きます。

「朝飯まで時間がある。
 なんなら、先に風呂はいってきたらどうだ?」

「うん、そうだね……
 じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

私は、恭也君の提案にのり道場を出て風呂場にいきました。
運動した後のシャワーはとても気持ちが良いです。
満たされた気持ちになりながら、その時間は過ぎていきました。



恭也's View

ここ最近の朝食は、菜乃葉が来た時に比べたら平穏である。
まぁ、かーさんは俺の制裁に懲りたのか、今の所俺や菜乃葉をからかうような真似はしてこない。
その為、朝食の話題は日常的なものになるわけなんだが……

「そういえば……
 なのはの学校って、今日は休みよね?」

「うん、そ〜ですよ。
 創立記念日でやすみですよ」

フィアッセの質問に肯定するなのは。
どうやら、なのはが在学している小学校は今日は創立記念日で休みらしい。
なのはに確認したフィアッセは、困ったように話だす。

「桃子や私は翠屋があるし……」

「うう、桃子さんも休みたい!」

「店長のあんたが、それを言ってどうする?」

かーさんの言動に呆れながらつっこむ俺。
他のみんなもかーさんの言動には呆れてるか、乾いた笑いをしている。
まぁ、他の家と違ってなかなか娘と構う時間が無いので、分からんでもないんだが……

「俺も亀も今日は学校やしな……」

「そやなぁ〜。
 まぁ、おサルはサボった所で問題ないけどな」

「てめぇ、やるか?」

「なんや?おサル、やるつもりか?」

「晶ちゃん、レンちゃん……」

晶とレンも相変わらずな対応を示してくれる。
毎度毎度飽きないものだ。
そして、なのははそんな二人を止めにはいる。
毎日行なわれる何時もの出来事に、俺を含め当事者以外は苦笑するだけだった。

「私と那美さんも学校があるし……」

「そうですね……」

美由希の言葉に神咲さんも反応する。
今日が何時もと違うのは、神咲さんと久遠が来ていることだけだ。
それ以外は変わらない。
神咲さんは、ふと思い出したように話し出した。

「でも、久遠は今のとこ空いているからなのはちゃんの相手は出来るね」

「くぅ〜ん」

神咲さんの言葉に反応する久遠。
まぁ、久遠は見た目と違って賢いし頼りになるから問題ない。

「俺も、今日は朝から講義だからな……」

と言う事で、俺も今日は空いていなかった。
流石に入学したてでサボるわけにも行かないからな……
そんな事を考えてた矢先、菜乃葉が遠慮がちに話し出した。

「え〜と、もしよろしければ、私が今日一日なのはちゃんの相手をしますけど?」

菜乃葉の言葉に、目を輝かせるなのは。
そういえば、なのはは菜乃葉に懐いていたのを忘れてた。

「えっ、ホントにいいんですか?」

「うん、なのはちゃんがよければ……、だけどね」

「やった〜。
 なのは、嬉しいです」

無邪気に喜ぶなのは。
そういや、今の表情を見るのは久しぶりな気がする。
そんななのはの表情をみて、頬を緩める菜乃葉。

「それじゃ、今日は菜乃葉ちゃんの言葉に、甘えさせてもらうとしますか」

「なのはも喜んでいるみたいだしね」

かーさんはやけにハイテンションだ。
そんなかーさんを見て苦笑するフィアッセだが、おもむろに懐から紙を三枚ほど取り出した。
よく見ると、何らかのチケットのようだった。

「はい、これあげるね」

「えっ、いいんですか?」

「うん。
 景品で貰ったのは良いんだけど、使う時期が中々取れなくてね……」

「それに、フィアッセの友人は有名人だからね。
 一緒に連れて行ったらそれこそ大騒ぎになるから」

「そうそう」

なのはの疑問にフィアッセは苦笑して答える。
そして、美由希はフィアッセの話に説明を追加する。
まぁ、フィアッセ自身も有名人なんだが……
そんなフィアッセが翠屋のチーフウェイトレスをやってるなんて話は、世間で知っている人間は身内以外で極僅かぐらいだけどな。

「ありがとうございます」

なのははフィアッセの言葉に納得して、チケットを受け取る。
どうやら、遊園地のチケットのようだ。
菜乃葉は確認するように見て、疑問を口にした?

「でも、何故三枚なんです?
 私と、なのはちゃんと……」

フィアッセは菜乃葉の話を遮るように答えを出した。

「久遠の分だよ。
 その娘、子狐状態だと入園出来ないからね」

「あっ、そういう事ですか」

フィアッセの言葉に納得する菜乃葉。
そして、なのはは喜んで久遠と話をする。

「よかったね、く〜ちゃん」

「くぅ〜ん」

久遠も嬉しそうだ。
そんな三人を見て俺たちは微笑んでいた。
これが、俺たちの家の何時もの風景であった。



なのは's View

現在、私はなのはちゃんの付き添いで遊園地に来ています。
それにしても、開園して間もないのか平日なのに凄い人込みです。

「うわ〜、凄い」

「なのは、人多いから気をつける」

「久遠ちゃんの言うとおりね。
 だけど、本当に凄い人込みだねぇ、平日なのに……」

私は、その光景を見て呆気に取られます。
平日だからそれ程込んでいないと思っていたのですが、予想は大外れでした。
そんな私を見て、なのはちゃんは苦笑しながら話します。

「この遊園地って世界で展開されているんですけど、つい最近になって日本に上陸したんですよ」

「なるほどね。
 どおりで人が多いわけだ……」

なのはちゃんの説明に納得して苦笑します。
そうは言っても、ここで突っ立ってる訳には行きません。
でも、周りを見る限り、猫耳やらいぬ耳やらのヘッドバンドをつけている人は多いし、子供に限っては作り物の尻尾までつけてる子もいます。
確かに、久遠ちゃんが子供モードになっていても違和感がありません。

「久遠、ここなら違和感ない?」

「違和感ないよ、く〜ちゃん」

なのはちゃんと久遠ちゃんのやり取りを見て、私は微笑んでいます。
まぁ、久遠ちゃんの服装が巫女服なので目立つといえば目立つのですが、どうもコスプレしている子供としか見られていないようなので問題ないみたいです。
周りからの視線も、今の所は違和感あるような感じはしてませんから。

(そういえば、遊園地に来たのって何時以来なんだろ?)

ふと、疑問に思う私でした。
小学3年生の終わりから管理局の仕事を始めてたので、それ以降はあまり時間は無くみんなで遊びに行った事は少なかったです。
それに、出かけるとなると海とか山とか温泉とかで、たいていが泊まり込みの旅行でしたから。
そんな事を思い出していた私ですが、なのはちゃんと久遠ちゃんに腕を引っ張られ我に返ります。

「菜乃おねーちゃん、どうしたの?」

「菜乃葉、大丈夫?」

「あ〜、ゴメンゴメン。
 ちょっと、考え事というか昔の事を思い出してたの。
 遊園地なんて久しぶりに来たものだからね……」

なのはちゃんと久遠ちゃんに、私は苦笑して答えます。
私の答えに、なのはちゃんも苦笑して話してきました。

「実は、なのはもなんです」

「そうなの?」

私の家族と違って、こちらの高町家の住人はなのはちゃんの事を大事にしていると思っていたのですから、なのはちゃんから出た言葉は以外でした。
驚く私に、なのはちゃんは話を続けます。

「はい、家のみんなは忙しいですから」

「あ〜、確かに……
 桃子さんやフィアッセさんは、翠屋があるから中々出かけられないね……
 でも、恭也君や美由希さんは?」

なのはちゃんの話を聞いて、桃子さんやフィアッセさんは納得できるんですが、私の兄や姉と違って恭也君や美由希さんはなのはちゃんの頼み事は聞いてくれると思います。
だから私は疑問に思って、なのはちゃんに聞いてみました。
なのはちゃんは、私の疑問に苦笑して答えてくれます。

「え〜と、おにーちゃんはこういった騒がしい所を苦手にしてますから……
 どうしてもってお願いしたら、一緒に行ってくれるんですけど……」

「……そういえば、天気がいい日には盆栽する人だったね」

「それか、海釣りか川釣りに出かけるぐらいです」

なのはちゃんの言葉を聞いて納得する私。
恭也君と一緒に行動している内に、大体の事は把握していました。
恭也君は、なのはちゃんの言うとおり人込みが多い所を行くのを嫌っています。
恭也君が言うには、待っている時間が無駄に感じるそうで……
だからって、かかりつけの医者まで迷惑かけるのはどうかと思うんですけどね。

「でも、こういう場所以外でしたら、おにーちゃんは付き合ってくれますから。
 なのはは特に気にしていません」

「そうなんだ……」

なのはちゃんは笑顔で話します。
なのはちゃんの態度を見る限り、恭也君に対して不満は持っていなさそうです。
そんななのはちゃんが、羨ましいと思う私でした。

「……けど、おねーちゃんは」

「美由希さんがどうしたの?」

なのはちゃんが不意にもらした言葉に、私は反応します。
私の言葉になのはちゃんは肯いて、呆れるように話し出しました。

「おねーちゃんは意図してないと思うのですが……
 出かけるたびに、なんらかのトラブルを発生するんですよね。
 おねーちゃんが直接の原因の時もあれば、まったく無実の時もあるんですけど……」

「あ、あはは……
 例えば、どんな事かな?」

なのはちゃんの独白に、私は乾いた笑いをしながら聞き返します。
なのはちゃんは、溜息をついて話を続けました。

「この前、おねーちゃんと晶ちゃんとレンちゃんで出かけた時は、改札口を止めちゃうし……
 その前は出かけようと駅まで言ったら、人身事故で電車動かないし……」

「それって、本当に美由希さんが原因なのかな……」

なのはちゃんの話を聞いて、凄く疑問に思う私でした。
存在するだけでトラブルを呼ぶような人なんているのでしょうか?
トラブルを作る人は私の身近にいるんですけどね、アリサちゃんとかはやてちゃんとか……
でも、久遠ちゃんがなのはちゃんの話に割り込みます。

「美由希がいた時でも、那美と一緒にいた時は問題起きなかった」

「あっ、そういえばそうだね。
 那美さんが居るときは、おねーちゃんいてもトラブルは起きてないや」

久遠ちゃんの指摘に、なのはちゃんは反応します。
そしてなのはちゃんは、思い出すように納得するのでした。
那美さんは、巫女さんであり霊能力者……

「それって、美由希さんが疫病神なんかに取り付かれて、那美さんと一緒にいる時だけは疫病神から解放されているとか?」

「う〜ん、そうかもしれませんね」

私がふと思ったことを言葉にしました。
なのはちゃんは、私の言葉に肯定を示しますが、久遠ちゃんが私の疑問を否定します。

「でも、それだったら那美はすぐ気づくはず……」

「あっ、そういえばそうだよね」

「じゃあ、原因はなんだろうね?」

久遠ちゃんの言葉に、なのはちゃんも肯定します。
確かに、霊能力者である那美さんが美由希さんの側に行った時には気づくはずです。
しかし、今までそんな事をしていないって事は、私が考えた事は当てはまらないって事です。

「まぁ、おねーちゃんの事はこの際置いといて、今日一日おもいっきり楽しもうね!」

「うん、そうだね」

せっかく遊びに来たのに、下らない事を考えてもしょうがないです。
ここは、なのはちゃんの言うとおり楽しむ事にします。
あらかたの乗り物に乗り、時間は既に昼近くになろうとしています。

「込んでると思ったけど、意外にスムーズに乗れたよね」

「えへへ、来る前に下調べしといて正解でした」

「なのは、凄い」

なのはちゃんは出発する前に、この遊園地の情報を調べていました。
そのおかげで、どの時間になったらどの遊戯が空いてるかってのがわかり、人の込み具合に比べたら比較的余裕で乗る事はでき楽しんでいました。

「まぁ、でも……
 そろそろ、お昼だね」

「そうですね……
 どこにしましょうか?」

「う〜ん、そうだね……」

私は、入場口でもらったパンフレットを見ながら適当な場所を探しています。
その中に気に入った場所があったので、なのはちゃんと久遠ちゃんに提案しました。

「う〜ん、ここなんかはどうかな?」

「え〜、どれどれ……
 良いですねぇ、窓側の席が取れれば景色も楽しめますし」

「久遠、なのはたちが良いならそれでいい」

「じゃっ、決まりね」

そういうことで、私たちはそのお店に決めて向かいました。
運よく、そこのお店はまだ込んでいなく窓側の席に座れました。
そこから眺める海鳴市の風景はとても綺麗です。

「ところで、菜乃おねーちゃん……
 ここ高そうだけど、お金は大丈夫なんですか?」

「それは大丈夫。
 恭也君から借りてきてるから……」

「あ〜、そうなんですか。
 じゃ、大丈夫ですね」

「恭也、意外とお金持ちだから」

なのはちゃんの心配はごもっともなんですけど、今の私は恭也君から借りているので問題は無いです。
もっとも、管理局との連絡が取れるようになれば借りたお金は返せるんですけど……
それに、前の騒動の報酬とかで恭也君が私にくれた分もあるので、今の所生活するぐらいはあります。
まぁ、恭也君はリスティさん絡みの仕事をしているのでそれなりの報酬は貰っているそうですけどね。
なのはちゃんも納得したようで好きなものを頼んでいます。
久遠ちゃんはなのはちゃんに決めてもらっているようなので、私は自分の分を決める事にします。
十分少々が過ぎた頃には、頼んだメニューが運ばれてきて他愛の無い会話をしながら食事をします。
あらかた食べ終わり、残っているのはデザートだけになった頃、不意になのはちゃんが話をしてきました。

「あの、菜乃おねーちゃん。
 今日なんですけど……
 なのはは、おかしな夢をみたんですよ」

「どんな?」

なのはちゃんの話に興味が湧いたので、聞いてみました。
なのはちゃんは私に肯いて、話を続けます。

「その夢の中になのはが存在していたのですが……」

「それで?」

なのはちゃんは、何処か引っかかるような話し方をします。
私は、なのはちゃんに悪いんですけど、興味の方が上回って催促します。
そんな私を見て、なのはちゃんは意を決したように話しだしました。

「なのは、おとーさんは写真でしか知らないんですけど……
 夢の中のなのはは、おとーさんが生きていたんですよ」

「えっ?」

なのはちゃんの言葉に驚いて、私は一瞬我を忘れました。
そんな私を見たなのはちゃんは、怪訝そうに聞いてきます。

「菜乃おねーちゃん、どうかしました?」

「えっ、あっ……
 なっ、なんでもないよ、なんでも……」

私は、慌ててごまかします。
まぁ、夢の中なので偶然だろうとその時は考え直しました。
でも、なのはちゃんの話には続きがあります。

「それでですね、おとーさんは生きていたのですが、何故か大怪我して入院していたんですよ。
 そして、なのははというとおばーちゃんの家に預けられていたんです……」

「!?
 えっ、それって……?」

なのはちゃんの話を聞いて、私は確信しました。
なのはちゃんが見た夢は、間違いなく私の過去の記憶……
でも、何故……?
戸惑う私に、確認するようになのはちゃんは聞いてきます。

「菜乃おねーちゃん、心当たりあるんですね?」

「えっ……
 うん、その話は間違いなく私の記憶……」

私は戸惑いながらも、事実を話しました。
私の話を聞いたなのはちゃんは、納得するように苦笑するのでした。

「昨日、なのはの部屋で菜乃おねーちゃんとくーちゃんと一緒に寝たじゃないですか。
 その時に、くーちゃんの、夢写しって能力が発動しちゃったみたいです」

なのはちゃんの話に出てきた言葉に疑問を持った私は、鸚鵡返しで聞き返しました。
そんな私に、なのはちゃんは説明してくれます。

「夢写しって言うと?」

「え〜とですね、寝ている人に対して他人の記憶を夢で見せる能力なんです
 だけど、無意識に発動しちゃうんで……」

「ごめん……
 久遠、みんなに迷惑かけた……」

「あっ、ううん……
 気にしないで……」

困惑したようにおろおろする久遠ちゃん。
そんな久遠ちゃんを責めるわけにはいかず、苦笑して頭をなでます。
本当の所は、あんまり他人に触れられたくない事なんですけどね。
だけど、触れられたのがなのはちゃんだったのは、幸いでした。
それに、なのはちゃんの説明を聞く限りは、今朝私が見た夢はどうやらなのはちゃんの記憶。
それなら、お相子になりますから。
一通り落ち着いた所で、なのはちゃんは戸惑いながらも真剣な目つきで質問してきます。

「あの、菜乃おねーちゃん。
 質問してもいいですか?」

「うん?
 何かな、なのはちゃん?」

そんななのはちゃんを見て、私も返事をします。
なのはちゃんは一息入れてから、話し出しました。

「菜乃おねーちゃんは、自分の家族が苦手なんですか?」

「えっ!?」

なのはちゃんの質問は、私が抱えていた闇に鋭く切り裂いてきました。
嫌いと言われればそんな事はないと断言できます。
だけど、苦手かって言われると……

「……そうなのかもしれない」

私は、なのはちゃんの質問に力なく答えました。
実際、私が管理局に入ったのは、確かに魔法の力を正しく使いたい、人のために使いたいって理由があったのは事実ですし、今でもそれは変わりません。
だけど、それ以外にも……
居場所の無かった家庭から独立したかったのもあったのは事実です。
そんな私を見たなのはちゃんは、私から視線を外し窓から見える景色を見ながら話を続けます。

「菜乃おねーちゃんの気持ちも分からない事はないんです。
 あの夢を見て、なのはが同じ体験をしたら同じ思いをするでしょうから……」

私は、なのはちゃんの話を無言で聞いています。
なのはちゃんは、私に構わず話を続けます。

「……でも、菜乃おねーちゃんの家族も同じ思いをしてたんじゃないでしょうか?」

「えっ?」

なのはちゃんの言葉に私は驚きました。

(お父さんやお母さんが、私と同じ気持ちを頂いてた?)

そんな事、考えても見なかったです。
なのはちゃんはそのまま話を続けます。

「菜乃おねーちゃんのおとーさんだって怪我をしたくてしたわけじゃない。
 菜乃おねーちゃんのおかーさんだって、菜乃おねーちゃんの事を嫌って放っていた訳じゃない」

「……どうしてわかるの?」

私はなのはちゃんに対して、怒気をはらんだ声で質問しました。
我ながら大人気ない行動だと思います。
でも、なのはちゃんはそんな私に怯む事無く質問に答えてくれました。

「菜乃おねーちゃんは覚えていないみたいですけど、おかーさんと一緒におとーさんのお見舞いに行った時の記憶を見たんです。
 その時のおとーさんとおかーさんは、涙を流しながら菜乃おねーちゃんに謝っていましたよ。
 ――一緒にいられなくて、ごめんなさい――って……」

「!?」

なのはちゃんの言葉に、私は驚愕してしまいました。
確かに、記憶の片隅にはお母さんと一緒にお父さんのお見舞いに行った記憶はあります。
だけど、その記憶は曖昧で何を話していたかは思い出せません。
そんな私に、なのはちゃんは苦笑して話を続けます。

「なのはも、菜乃おねーちゃんと同じように、一人の時はありました。
 それで、菜乃おねーちゃんと同じ状況なら、おかーさんやおにーちゃんに八つ当たりしていたと思います。
 ――どうして構ってくれないのっ――って……」

「でも、そうならなかったのは晶ちゃんやレンちゃんの存在があったからだね?」

「はい、菜乃おねーちゃんの言うとおりです。
 晶ちゃんやレンちゃんが居てくれたおかげで、自分だけが孤独な存在じゃないんだって知りました。
 それに、おかーさんやおにーちゃんの思いも知る事が出来たのも晶ちゃんやレンちゃんのおかげです」

私となのはちゃんの違い……
それは、幼い時に一人だったかそうでなかったかだけ。
でも、その違いはあまりにも大きくて、今のなのはちゃんは私には眩しいぐらい輝いていました。
私もなのはちゃんみたいな環境だったら、違う育ち方をしたのかなって思います。
なのはちゃんは、再び真剣な表情になり話を続けました。

「一度おとーさんとおかーさんに、本音をぶつけて話し合ったらどうですか?
 なのはが思うには、菜乃おねーちゃんが自分から壁を作っているようにしか見えないんですけど……」

「……そうだね、そうだよね。
 このまま、蟠りを抱いた状態ですごしたら前に進めないよね」

なのはちゃんに気づかされて、少し情けなる私です。
だけど、なのはちゃんの言うとおり、本音をぶつけなければ前に進めないのも事実です。
だから、この事件が終わって私の周りが落ち着いたら家族と話し合う為に、一旦家に戻ろうと思います。
それにしても、こっちの私はその年でしっかりしているんだなと思います。
同じ頃の私は、悶々と将来の事、家族の事で悩んでいたなと思い出していました。
なのはちゃんは、急に慌てたように話してきます。

「あっ、なっ、菜乃おねーちゃん……
 なのは、生意気な事言ってごめんなさい」

そんな、なのはちゃんの態度が可笑しくて、不覚にも笑ってしまいました。
でも、恭也君やなのはちゃんのおかげで家族に対する認識は変わっていきそうです。

「ううん、気にしないで。
 なのはちゃんのおかげで、気づく事が出来たらから」

「えへへ……
 そう言ってもらえると、なのはとしても良かったかなと思います」

私の返事に、照れたように笑うなのはちゃん。
そんななのはちゃんを見て笑っていた私でした。
だけど、朝の夢がなのはちゃんの記憶ならこちらとしても確認したい事がある訳で、私はさりげなく仕返しをしました。

「だから、今度はこっちの番。
 なのはちゃん、家族……
 というより、恭也君に対して複雑な感情抱いているでしょ?」

私の言葉に、一瞬キョトンとするなのはちゃん。
だけど、私の意図に気づいたようでなのはちゃんは観念したように話しだしました。

「え〜と、おにーちゃんがどうのこうのって訳じゃないんです。
 ただ、なのはが家族の……
 特に、おにーちゃんの足枷になっているのが嫌なんです」

「……足枷?」

なのはちゃんの意外な言葉に、私は目を丸くしていました。
なのはちゃんは、そんな私に構う事無く話を続けます。

「おとーさんが亡くなってから、おにーちゃんはずっと家族の為に犠牲になっていたんです。
 本当なら、いろいろやりたい事あったはずなのに……」

「あっ!」

私は、なのはちゃんの独白を聞いて納得しました。
こちらの世界での恭也君は、なのはちゃんにとってお兄ちゃんであると同時にお父さんでもありました。
そして、あの夢でのなのはちゃんの思いは、恭也君に対して嬉しさと同時に申し訳なさが混じった感情だったんだと……
そんな思いを抱いていたなのはちゃんに比べて、あの時の私が抱いていた感情はとても情けなく感じてしまいました。
当時、私は自分しか見ていませんでしたが、なのはちゃんは同じ年の頃には周りを見ることが出来ています。

(敵わないな、なのはちゃんには……)

私がそんな思いを抱き、なのはちゃんを眩しそうに見ました。
そんな私の態度に、キョトンとするなのはちゃん。
久遠ちゃんは、ずっと黙っててジュースを飲んでいます。
そして、疑問に思ったなのはちゃんが聞いてきます。

「あの……
 菜乃おねーちゃん、どうかしましたか?」

「あっ……
 うん、なのはちゃんが凄いなと思ってね」

「そっ、そんな事ないですよ。
 菜乃おねーちゃんの方が凄いですよ、なのはと同じ頃にはもう働いているんですから」

「えっ?
 あっ、うん……
 それは、そうなんだけど……」

私が素直に感想を述べたら、なのはちゃんは慌てて否定します。
まぁ確かに、なのはちゃんと同じ頃というより一年後からなんですけど、管理局の仕事を始めていました。
でも、私以上に考えが大人ななのはちゃんの方が凄いと思います。
なのはちゃんは、不思議そうに私を見た後に苦笑して話を続けました。

「でも、ここ最近のおにーちゃんは余裕が出てきたみたいで、なんでもかんでも抱え込む事は少なくなってきたんですよ」

「そうなんだ」

なのはちゃんは表情とは裏腹に、とても嬉しそうに話してきます。
恭也君も似たような事言っていたなと、この時思い出していました。
だけど、なのはちゃんが何かいたずらを企んだ表情みたいに笑顔になります。
凄く嫌な予感がするのですが……

「それにね、菜乃おねーちゃんが来てから、おにーちゃんの表情が柔らかくなっているんですよ」

「えっ、え〜と……」

なのはちゃんの言葉に、私は乾いた笑いを浮かべるだけです。
ことこういう色恋沙汰の話は苦手なんです。
というより、自分が関わる話は、ですけど……
なのはちゃんは、私に構わず話を続けます。

「おにーちゃん、菜乃おねーちゃんに対してだけ態度が違うんですよ。
 菜乃おねーちゃんはおにーちゃんの事、どう思っています?」

なのはちゃんの目線が、私を鋭く貫きます。
いや、どう思っていますって聞かれても……
惹かれているのは事実ですけど、流石に今は教えたくないです。
なので、私は笑ってなのはちゃんをいなしました。

「えへへ、それはヒミツ」

「ぶ〜、その答え、ずるいです」

私の回答に、明らかに不機嫌になるなのはちゃん。
でも、その目は笑っていました。

「それに、そろそろ出ないと乗り物に乗れなくなるね」

「えっ……
 うわ〜、結構長い時間いたんだ」

「なのは、急ぐ、急ぐ」

その後、私たち3人はおもいっきり楽しんでいました。
そして夕方になり、私たちは帰宅途中です。

「うわ〜、結構遊んだねく〜ちゃん」

「くぅ〜ん」

久遠ちゃんは、子狐モードになってなのはちゃんのリュックの中に入っています。
空一面が綺麗な夕焼けで、赤く染まっています。
なのはちゃんは急に改まって話してきました。

「菜乃おねーちゃん」

「何、なのはちゃん」

「今日一日、なのはに付き合ってくれてありがとうございました」

「えっ、なのはちゃん、気にしなくていいのに。
 今の私はただの居候だよ」

なのはちゃんが私にお礼を言ってきます。
だけど、今の私は高町家の厚意に甘えてる居候ですから……

「でも、菜乃おねーちゃんが居なかったら、今日は夕方まで家で留守番でしたから。
 なのはとくーちゃんだけだと、どうしても遠出は無理ですから」

「あっ、そうだね……」

なのはちゃんの話に納得する私。
確かに、その年齢で遠出をするには問題がある訳で……

(でも、当時の私はとんでもない所に行っていたかな)

昔を思い出し、私は苦笑します。
当時の私は遠出というか、次元移動もしていましたからね。
一応、リンディさんって保護者はいましたけど……
まぁ、それは兎も角、お礼を言うのは私の方……
なのはちゃんのおかげで家族との距離を縮められそうですから。

「なのはちゃん、お礼を言うのは私の方だよ。
 なのはちゃんと話をしなかったら、多分家族に対して有耶無耶なまますごしていたと思う……」

実際、恭也君のおかげである程度の蟠りは解消していたのですが、完全にとは行っていませんでした。
だから、なのはちゃんのおかげで家族と話し合う勇気を貰ったのは事実です。
なのはちゃんは、私の言葉に照れながら答えてくれます。

「えっ、そんな……
 でも、何らかのきっかけになったようでよかったです」

「うん」

そのまま心地よい時が過ぎ、不意に見知った人影が目に入ってきます。
その人影は、私たちを確認するなり話してきました。

「なのはに菜乃葉か。
 今、帰りか?」

「あっ、恭也君」

「おにーちゃん」

見知った人影は間違いなく恭也君です。
そして、恭也君の隣には男性がいます。

「おっ、なのちゃん。
 久しぶり〜」

「お久しぶりです、赤星さん」

どうやらその男性、赤星さんはなのはちゃんともお知り合いのようです。
ということは、恭也君のお友達なんでしょうね。

「それで、そちらの可愛いお嬢さんがお前の恋人ね」

「えっ!?」

「……ちょっとまて、赤星。
 その話、誰から聞いた?」

赤星さんの意外な一言に、私は目を丸くしました。
顔が赤く染まるのを自覚します。
恭也君は、赤星さんの一言に驚いて赤星さんの方に手を置いて問い詰めています。
恭也君の顔は、夕焼けの影響か真っ赤にそまっていましたけど……
赤星さんは恭也君の雰囲気に飲まれる事無く苦笑して答えます。

「いや、この前翠屋に行った時にな……」

「ああ、大体分かった。
 かーさんと月村だな」

「ご名答」

「まったく、あの二人は……」

赤星さんの話に、私は苦笑します。
恭也君は、完全に苦虫を潰したような表情をしています。
赤星さんは、そんな恭也君に話を続けました。

「まぁ、でも……
 その様子だと、まんざらでもないんだな」

「……頼むから、勘弁してくれ」

赤星さんに責められ、恭也君は脱力しています。
恭也君の顔は、ほんのり赤く染めていましたけど……
赤星さんは咳払いをしてから、私に話しかけてきました。

「え〜と、初めまして。
 赤星勇吾っていいます。
 まぁ、こいつとは腐れ縁なんで長い付き合いですけどね」

「あっ、はい、初めまして。
 御神菜乃葉って言います」

見た感じ、赤星さんは人当たりがよさそうです。
堅物な恭也君と付き合っているのも肯けます。
でも、赤星さんは私となのはちゃんを交互に見て呟きました。

「話には聞いていたけど、ホントにそっくりなんだな。
 なのちゃんと菜乃葉さんって……」

「あはは、よく言われます……」

赤星さんの言葉に、私は苦笑するしかありません。
まぁ、散々言われているんですけどね。
ところで、気を取り直した恭也君が赤星さんに話しかけます。

「それで赤星、晩飯はどうする?」

「そうだな、久しぶりにお言葉に甘えさせてもらうか。
 お前と菜乃葉さんの関係も聞きたいしな」

「そういうお前はどうなんだ?
 散々、恋文貰っていただろ、俺と違って」

「いや〜、丁重にお断りさせてもらってるよ」

「赤星さん、もてますからね」

「あはは。
 そんな事無いよ、なのちゃん」

何か、恭也君と赤星さんの話を聞いてると、実は似たもの同士ではないかと思ってしまいます。
でも、恭也君は以外に楽しそうにしています。
だから、親友なのかも知れません。

(フェイトちゃんとはやてちゃんには、心配かけっぱなしだね)

恭也君と赤星さんの姿を見ながら、遠くにいるフェイトちゃんとはやてちゃんに思いを馳せていました。
もっとも、この日から数日後に会うことになるとは思ってもいませんでしたけどね。
しかし、この世界に飛ばされてからいろいろ考えさせられました。
そのことは、私にとって有意義な時になっています。
そして、比較的平穏無事な一日は終わりを迎えました。

Side03 Fin




後書き

ども、猫神TOMです。
横道シリーズ第三弾はほのぼの路線で攻めてみました。
まぁ、ぶっちゃけ、原作版なのはとアニメ版なのはの対比なんですけどね……
アニメ版なのはは、家族に対して複雑な感情を抱いているんですよね。
とくに無印だと……
だけど、A'sはそこらへんの話はオミットされてるしStSだと既に成長しきっている状態ですからね。
なので、今回はそこらへんの事情を自分なりに書いてみました。

逆に原作版なのははOVA見る限りでは家族、とくに恭也が夢に向かって進んでいることを喜んでいます。
ということで、原作版なのははどちらかといえば恭也に甘えているけれど、その行為によって恭也が好きな事を出来ないんじゃないかって悩んでいたりしています。

後、アニメ版なのはなんですが……
運動オンチの設定はどこいったのかってぐらいアクションしていたりorz
なので、今回美由希との模擬戦をやってみました。
まぁ、それなりの高速戦闘を行っていると言う事で……

では



今回は日常的なお話。
美姫 「なのはの家族に対する心情ね」
だな。いやー、思わずしみじみと。
美姫 「全体的にはほのぼのとした休日よね」
うんうん。こういうお話も良いな。
美姫 「本編の方も楽しみにしてますね」
待っていまーす。



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