『生まれたときから Part-3』




夕食後

「美由希、足の具合はどうだ」

「まだ腫れが引いていないよ、恭ちゃんが思いっきり遣るんだから」

「すまない、今夜の鍛錬は俺一人で行く、お前は休め」

「気にしなくても良いよ、こんな痛みなんかすぐに取れるから」

「ああ・・・・」

何か割り切れない気持ちだ鍛錬に出かける恭也であった。

秋霜

八束神社の境内で座禅を組んで、謎の呼びかけと視線について考えていた。

いくら考えても答えは出てこないことに苛立ちを覚える恭也であった。

「ただいま」

すでに皆寝ているのだろう、物音ひとつしない。

シャワーを浴びてから台所へはいて、コップを取り出し、水を満たす。

庭に出てみると、煌煌と月の明かりが庭を照らし出す。

やはり分からない、敵なのか、敵だとしたら龍か、それとも、俺の知らない

処で御神を恨んでいる誰かなのか。

独り言が口をついて出てくる。恭也は自分の身に迫りくる影に対して考えを巡らす。

翌日、目が覚めると寝不足が原因で頭がふらふらする。

体も少しだるい。

「おはよう恭ちゃん」

美由希が部屋まで食事の支度ができた事を知らせに来てくれる。

「ああ、おはよう直ぐ行く、ありがとう」

そう言って起き上がろうとするが膝に力が入らない。

何とか立ち上がるがすぐに倒れそうになる。

戸を開けて一歩踏み出したところで意識が無くなる。

「恭ちゃん」

「恭也」

「「師匠」」

「お兄ちゃん」

俺を呼ぶ声が聞こえるがすぐに遠のいてゆく。

暗闇の中で手探りで進んでゆく、灯りひとつ無い暗闇の世界。

ひたすら歩いてゆくとしばらくして前方に灯りが見えてきた。

一人の男が歩いてゆく、その男の背中に見覚えがある。

「父さん、父さんじゃないか、父さん・・・・・・」

男は振り向く事無く進んでゆく、必死に追いつこうとするがどんどん離されてしまう。

声を限りに叫ぶ。

「父さん、父さーん・・・・・」

やがて男は一度だけ振り向き微笑むと視界から消えてしまう。

「父さん、俺はどうすればいいんだ、教えてくれよ!」

気が付くと俺は病院のベッドの上で寝かされていた。

起き上がろうとして体の自由が利かない事に気が付く。

母さんが俺の胸の上で、美由希が足元で寝ていた。

「母さん起きてくれ、美由希もだ」

「恭也が目を覚ました、美由希、恭也が目を覚ましたわよ」

「恭ちゃん、良かった目が覚めてくれて、本当に良かった」

「一体どう言う事だ、これは」

かあさんがナースコールを押すとフィリス先生が病室に駆け込んでくる。

「恭也君、どこか変なところは無い、痛みとか痺れとか」

口早に質問する。何をそんなにあせっているんだろう、不思議に思いつつも。

「ええ、いたって元気ですが」

と俺は答える。

「本当に何も無いんですね、本当ですね」

と言いながらピアスを外す。

キーンと音がしてフィリス先生の背中から羽が飛び出す。

「うん、うそは言ってないみたいですね」

「勝手に心を読まないでほしいんですが」

「恭也君は嘘をつくから、心配させまいとして嘘をつくから」

涙声になりながらうわ言のように繰り返すフィリス先生。

しばらくして気持ちが落ち着いたのか、ピアスをつけると羽が消えた。

「心配したんですよ、三日間眠り続けていたんですから」

三日間、俺はそんなに寝ていたのか、一体何があったんだ。

「フィリス先生、俺は三日間も寝ていたんですか」

「はい、一時はもう目が覚めないのではと思うくらいでしたよ」

先ほどとは打って変わって、嬉しそうに話す。

「じゃ、診察しますね、皆さんは外に出ていてください」

母さんや美由希は病室の外へ出される。

診察が一通り終わって。

「過労が原因だと思うのですが、異常は認められませんから安心してください」

自分に言い聞かすように、みんなに説明してゆく。

一体何が原因で三日も寝ていたのだろう。

まあ異常が無いのだからそれは、それでいいか。

単純にきめる恭也であった。

あの時、父さんはなぜ答えてくれなったのか。

みんなが帰った病室で一人恭也は考えていた。

「失礼します」

ドアの外から声が掛かる。

「どうぞ」

さくらさんが入ってきた。

「お加減は如何ですか」

「はい、もう大丈夫です、どこにも異常は無いそうです」

「そうですか、それは良かったですね」

「ありがとうございます」

お見舞いのせんべいをさくらさんの入れてくれたお茶を飲みながらかじる。

塩味が口に心地よい、お茶ともあっている。

「ところで恭也君、何が原因かは知らないけど、過労で倒れて三日も寝込むとは

尋常じゃないわね、鍛錬メニュを考え直した法がいいんじゃないかな」

「そうですね、一度考え直してみます」

「ええ、其のほうがいいわね、忍が私の所にきて君のことを話していたからね。

練習量がハンパじゃないらしいからって心配していたよ。其れとぅ――、

この頃変わった事は起こらなかった?うまく言えないんだけど」

彼女も異端の能力を持って居る、鋭いところを付いてくる、何か感じている見たい

だが。

「ええ 別に気が付きませんでしたが」

それからしばらく忍の話などをして、さくらさんは帰って行った。

入れ違いに美由希と那美さんが入ってきた。

「恭ちゃん、具合はどう」

「恭也さん、お加減はいかがですか、

霊障じゃないかって薫ちゃんも心配していましたよ」

「そうだよ、恭ちゃん」

「仕事の都合で今日はこられないけど、あさってには海鳴に来るそうです」

「薫さんが来られるんですか」

「はい、こちらのほうで一件仕事があるそうです」

「そうですか、薫さんが来られるんですか」

其のとき、誰かに呼ばれたような気がした、地の底から響くような声で呼んでいる。

美由希も那美さんも聞こえていないみたいだ、しかし、はっきりと聞こえた。

俺を呼ぶ声が、どこか悲しげな、それでいて高揚とした声が俺の耳には届いた。

何かが動き出している、まだ分からないが厄介な事に為らなければいいんだが。

翌日、退院した俺は、朝食を済ませ登校時間まで縁側でお茶を飲みながら、

さくらさんの持ってきてくれたせんべいをかじる。

「――ょ――や」

「きょ――う――や」

また聞こえてきた、誰が、何の用で俺を呼んでいるんだ。

闇からの叫び

お前は誰だ、誰なんだ、なぜ俺の名前を呼ぶんだ。

心の中で姿無き声の持ち主に問いかける。

続く



突然、倒れた恭也。
美姫 「一体、何が起ころうとしているのかしら」
うーん、いきなりだからな。
秋霜とは一体…。
美姫 「これからどんな展開になるのかしらね」
次回が楽しみです。
美姫 「それじゃあ、また次回で〜」



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